「いじめから30年過ぎても殺したい」47歳男の半生 悲劇を生み出さないために社会ができる事とは

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いじめ被害から30年以上が過ぎた今もなお「殺したい」と思うほどの憎しみを抱えるトモカズさん。被害者にとって心の傷は何年たっても癒えることはない。「いじめやハラスメント被害の時効は撤廃するべきです」と言うトモカズさんの訴えは切実だ。

ところで、トモカズさんは編集部に送ってくれた取材依頼のメールの中で、自身が貧困状態となった原因について、学生時代のいじめに加え、社会人になってから受けたパワハラを挙げていた。ただ話を聞く限り、パワハラについては判断が難しい面もあるようだ。

「パワハラ」のきっかけは?

本連載の取材では、職場でパワハラに遭ったと訴える人に数多く出会う。この中には、自身が受けた被害については詳細に語るものの、被害のきっかけとなった出来事の話になると、「わからない」「忘れた」などとして一転して口数が少なくなる人が実は少なくない。彼らが話したくないのか、それとも本当に忘れてしまったのか、私にはわからない。

トモカズさんはさまざまな職場で「うちの孫のほうがうまくやれる」「それくらいわかるだろう」「さぼっている」といった暴言をはかれたほか、丸めた書類で頭をたたかれるなどの暴力を受けたと訴える。たしかに孫を引き合いに出したり、頭をたたいたりといった行為はパワハラといわれても仕方ない。ただ賃金を支払っている以上、使用者や上司が一定の効率や成果を求めることは、やむをえない面もあるのではないか。

そのあたりを見極めたいと思い、パワハラのきっかけとなった出来事について尋ねたところ、トモカズさんの答えもやはり「ミスもあったかもしれないがわからない」「期待された成果が出せなかったからでしょうか」というあいまいなものだった。

かろうじて聞き出すことができたのは、営業の仕事で車を運転中に複数回の人身事故を起こしたところ、同僚が自分への当てつけのように相川七瀬の「トラブルメイカー」を歌ってきたこと、書店で働いていたときに客から「白紙の領収書が欲しい」と言われたので手渡したところ、後で店長から「なんで渡すんだ!」と怒られたといったエピソードだった。とくにトラブルメイカーを歌った同僚に対しては「ぶん殴ってやろうか」と思うほどの怒りを感じたと振り返る。

またコンビニでアルバイトをしていたとき、夜間のワンオペ勤務で仕事がなかったのでバックヤードでモニターを見ていところ、店長から「さぼっている」と叱責されたこともあったという。

あくまでも私だったらという仮定の話だが、もし私が人身事故を起こしたら、その重大さを前に同僚の嫌がらせにまで気が回らないと思う。白紙の領収書については犯罪の片棒を担ぐことになりかねないので頼まれても渡さないだろう。コンビニの深夜のワンオペは、休憩が取りづらいなど問題の多い働かせ方ではあるが、違法とまではいえない。もし私がそのシフトに入った場合は、防犯面のことを考えて手待ち時間はレジ前で過ごすのではないか。

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