無菌のシャーレに数個の細菌と培地を入れて、密閉する。細菌にとって完璧な環境だ。競争相手がおらず、しかも栄養もたっぷりある。
細菌がこの新しい環境に順応するまでにはいくらか時間がかかる。この準備期間を「遅滞期」という。遅滞期は1時間のことも、数日かかることもあるが、どこかの時点で突然終わる。
すると、シャーレ内の条件をどう利用すればいいかという問題を解決した細菌が分裂によって、増殖し始める。分裂は20分に1回起こるので、20分に2倍のペースで個体数は増えていく。
こうして指数関数的に増殖する「対数期」が始まる。培地の表面にどんどん細菌が広がっていく段階だ。
この段階では、各個体が自分の場所を確保して、必要な栄養を得ようとする。これは生態学では共倒れ型競争と呼ばれる。細菌どうしが他者を押しのけて自分が先になろうとする争いだ。
有限のシステムは一気に崩壊する
密閉されたシャーレのような閉じられたシステムの中で、このような競争が起これば、ハッピーエンドは期待できない。やがて増殖が進み、培地が細菌で埋め尽くされると、そこからは増殖すればするほど、各個体どうしが互いに邪魔な存在になり始める。
培地から得られる栄養が足りなくなり始める。排出されるガスや熱や液体が急速に溜まり、環境を悪化させ始める。
個体が死に始め、ここで初めて増殖率が鈍化する。死ぬ個体の数も、環境の悪化のせいで加速度的に増えていき、ほどなく「死亡率」と「出生率」が並ぶ。そのときついに個体数はピークに達し、そのまましばらく減りも増えもしなくなる。
しかし有限のシステム内で、そのような安定は永遠には続かない。持続可能ではないということだ。栄養があちこちで尽き始め、排泄物がシャーレ内に致命的に充満し、細菌のコロニーは形成されたときと同じように一気に崩壊する。
最終的に、密閉されたシャーレの中は最初とはまったく違う場所と化す。栄養がなく、環境は高温化と、酸化と、有害な物質の汚染で破壊されている。
「大加速」はわたしたちを、わたしたちの活動とそのさまざまな影響の程度を、対数期へと移行させる。
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