日本の安全保障「現実に即した転換」が急がれる訳 新国家安全保障戦略に求められる3正面への対応

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さらにロシアはウクライナを支援するわが国を敵視し、中国との軍事的な連携を強めている。日本は、中国、北朝鮮、ロシアという質と量は異なるが、いずれもリアルな脅威に最前線で対峙している。日米共同を基本に、まずは日米共通の最大の「挑戦」である中国への対応戦略を固め、そして韓国とも共同する対北戦略、NATOと協調する対ロ戦略を練る必要がある。

戦略実行に必要な手段とコスト

国家安全保障戦略には、脅威に対処するための具体的な手段をどのように確保し、使用するかが明示されなければならない。同時に、手段を確保するための予算や人員、所要期間等の資源配分の裏付けが必要だ。

現戦略は、その戦略的アプローチとして、まずわが国自身の能力強化を掲げ、総合的な防衛体制の構築、サイバーセキュリティの強化、情報機能の強化等10項目を挙げている。策定当時は先見的なアプローチであったものの、これらの能力が十分に強化されてきたとは言いがたい。新戦略の策定に当たっては、なぜ国家安全保障の基本指針に明記されながら必要な強化が為されなかったのか、原因を把握し、その教訓を生かさなければならない。

例えば、総合的な防衛体制の構築には相応の予算や人員が必要だが、9年間の防衛費の伸びは微増にとどまった。そこには、「防衛計画の大綱」に由来する予算の制約や「専守防衛」という硬直した思考があるのではないか。APIの細谷雄一研究主幹は「野党と世論を懐柔するため、防衛力整備に次々縛りをかけ、気づいたらがんじがらめになってしまった」と指摘する。

現在、防衛費を5年以内にGDP比2%をメドに増額するため、防衛省以外の防衛関連予算を繰り入れた「総合防衛費」の導入や恒久財源の議論が行われている。重要な論点だが、いまだに予算主導の議論にとどまっていないか。より必要なのは、現存する脅威に対処する手段と方策についての、従来の縛りを解き放った戦略主導の議論である。

戦略主導の議論は新領域にも必要だ。ウクライナ戦争は、グレーゾーンのハイブリッド戦と本格的軍事侵攻の全領域作戦の両方に備える必要を示した。その両方に共通するのがサイバー戦である。サイバー能力は、現戦略策定以降、外交・経済・軍事・情報に匹敵する国力の一要素とされるほど重要性が高まった。にもかかわらず、日本の対応は最も遅れている。

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