ロシアによるウクライナ侵攻直後、EU諸国は一致して対応しているかのように見えた。ロシアによる侵略行為を非難し、2月の経済制裁第1弾を皮切りとして、石炭などの輸入禁止を決めた第5弾まで早急にEU加盟国間の合意を取り付け、矢継ぎ早に制裁を発動した。
ところが、こうした一致は「自国ファースト」を主張する国が出てきたことで崩れ始めた。ロシア産原油の禁輸反対を表明したハンガリーはその典型である。第6弾制裁に関する交渉は1カ月以上にわたり、最終的にはパイプラインでの輸入を制裁対象から除外するという形での合意をはかることとなった。
ロシア・ウクライナ戦争において影響を受ける中、はたしてEUは加盟国同士で価値や行動をともにしていると言えるのか。本稿では、第6弾制裁に反対したハンガリー、そしてハンガリーと並び民主主義の後退が進んでいるとされるポーランドにも焦点を当て、EU内部での価値観をめぐる対立を明らかにするとともに、ウクライナ戦争のEU加盟国や欧州議会への政治的な含意と日本に求められる対EU外交のあるべき姿について試論する。
EU内部での価値をめぐる戦い
冒頭で述べたとおり、ロシアへの対応をめぐりEU加盟国間の足並みの乱れがある。自国経済への影響を考慮したことが大きな理由の1つとされるが、EUの結束の乱れは経済的な理由だけに起因するものではない。EU内部には民主主義や法の支配を中心とした価値観をめぐる相違が以前から根強く存在しており、現在も対立は続いている。
例えば、ハンガリーのオルバーン首相が「民主主義は必ずしもリベラルであるわけではない」と持論を述べた2014年の「非民主主義」演説は、欧州ではよく知られており悪名高い。実際、政府に対して批判的な言論への統制は年々厳しさを増しており、今年行われた2022年4月のハンガリー議会選挙において、国営放送では野党に許された発言時間はわずかであった。
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