そうした歴史的背景もあり、「世界金融危機は古典的な南北の分断を示し、移民問題は東西の分断を引き起こした」のに対して、今回の戦争は「欧州の東部[中欧諸国]内部での分裂を生じさせた」(ブルガリア出身の政治学者イワン・クラステフ氏、モンテーニュ研究所でのインタビュー)のである。
EUと各加盟国の利益バランスを保てるかが今後のカギ
以上のことが示していることは、ハンガリーやポーランドは体制間の力学にとらわれず、各々の独自のロジックに基づいて外交を行っており、国内で民主主義の後退が進みEUと対立しているからといって、両国の二国間関係やロシアとの関係が必ずしも深まっているとは言えないということだ。
ハンガリーやポーランドにとって、ドイツや世界最大の単一市場であるEUは、ロシアやそのほかの大国に過度に依存せず、バランスを取るためには欠かせない存在であり、EUという枠組みから抜けることは現実的ではない。EUにとっても、価値の共有という点で両国は悩みの種でありつつも、ロシアに対抗する政治枠組みとしてのEUの存在感を高めるには重要な存在である。
欧州委員会やほかのEU諸国が、ハンガリーやポーランド両国の国内情勢や地政学・地経学的環境を考慮しつつ対話を重ねることで、いかに敵対的な関係ではなく、論争こそあれど協力し合える関係として互いの経済的・政治的な関係を長期的に深めていけるかどうかが今後のカギとなろう。
日本はEUの多面的な側面を踏まえた外交を
日本としては、EUには、対ロシアの政治枠組みとしてのEUに加えて、価値や経済の共同体としてのEUという複数の側面があること、そして、大国間競争の枠にとらわれずに行動する国々によりEUの中に揺らぎがあることを理解しておくことが重要である。
日本はEUという窓口を通じて、どの国にどのような側面でアプローチするべきなのか。体制間レベル、EUレベル、各国レベルといった複数のレイヤー、さらには、民主主義、国際経済や地政学などの要素も多角的に分析し、それぞれに対して細分化した外交を行う必要がある。
(石川雄介:アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/地経学研究所 研究員補)
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