こうした反発や不満をもとに、ハンガリーのオルバーン政権やポーランドのモラヴィエツキ政権は、「自国ファースト」の政治を進めるとともに、EUの民主主義や法の支配を、人権への配慮などの要素を含んだ「厚い」理念ではなく、手続き的な意味だけに狭めた「薄い」理念に狭めようとしているのである。
大国の「帝国主義」への対抗
このようにEUに対立姿勢を見せているポーランドとハンガリー。しかし、それでは両国がロシア寄りの姿勢を見せているのかというと、事はそれほど単純ではない。
ロシアによる侵略が始まる以前からポーランドは、プーチン大統領が率いるロシアが欧州への脅威となりうる、と警告してきた。
ハンガリーでも、オルバーン首相や右派知識人らが、ハンガリーは大国による「帝国主義」に対抗すると繰り返し述べてきた。彼らが意図する「大国」には、EUやドイツ、アメリカといった欧米諸国が含まれているとよく指摘されるが、そうした欧米の大国への対抗の前提にはソ連による抑圧の歴史が深くかかわっており、ロシアに対しても被害者意識を持っている。ポーランド、ハンガリー両国ともソ連の負の歴史を忘れてはいない。
ただし、このロシアの被害者としての自己認識は、両国が対ロシア外交において一致団結しているということを意味している訳ではない。むしろ、ロシア・ウクライナ戦争への両国の対応をめぐっては、オルバーン首相とモラヴィエツキ首相が互いを批判しあっており、二国間の連携に亀裂をもたらしている。
例えば、今回の戦争における自国の立場として、ポーランドはロシアと敵対する方針を明確に示している一方で、ハンガリーは侵略を非難こそしたものの、ロシアに対しては曖昧戦略を維持している。また、ポーランドが行っている軍事物資の援助や訓練の提供に対しても、ハンガリーは当初から反対の姿勢を貫いている。
ポーランドは、18世紀後半のロシア、プロイセン、オーストリア三国によるポーランド分割、第2次世界大戦におけるナチスドイツとソ連による再度の分割など、ロシアに蹂躙されてきた歴史がハンガリーに比べて長く、安全保障上の脅威と警戒感をより強く持っている。
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