現戦略策定時から最も深刻化したのは、強大化した軍事力を背景に、尖閣諸島や台湾海峡の現状変更を追求する姿勢を強める中国である。第20回共産党大会で異例の3期目就任を果たした習近平総書記は、自ら掲げる「中国の夢」の達成には台湾統一が不可欠であり、その手段として武力行使を否定しないと明言している。
側近で固めた常務委員会に後継者候補が見当たらないとする指摘を踏まえれば、事実上の独裁体制の習主席が4期目を睨む10年間に、中国の脅威を、尖閣や台湾への軍事侵攻という日本の死活的国益を脅かす現実の事態に顕在化させないことが新戦略の主題となろう。
各種ミサイル戦力や無人機等の圧倒的優位に自信を深める中国に対し、「台湾有事」を仕掛けても必ず日米を中心とする国際社会が強く対応し、失敗すると思わせるのは、現状のままでは至難の業だ。ウクライナの教訓も引き合いに、中国がいかなる作戦や戦術を凝らしても、台湾と日米の共同対処戦略が大きなコストとリスクを強いることを明記し、習近平を抑止する説得力のある記述が必要だ。
整合性のある非核化と抑止の理論が求められる
「核兵器の小型化および弾道ミサイルへの搭載の試み」を続ける北朝鮮を、現防衛計画の大綱は「わが国に対する重大かつ差し迫った脅威」と認定している。一方、アメリカの国家安全保障戦略(2022.10.12)は、「北朝鮮の大量破壊兵器とミサイル脅威に対する拡大抑止を強化しつつ、朝鮮半島の完全な非核化に向けた明確な進展を図るため、北朝鮮との外交関係の維持を追求する」とされており、日米の脅威認識にはギャップがある。
プーチン大統領が核兵器による恫喝を実行し、実際に使用される可能性が深刻に懸念される状況がある中、北朝鮮に対するアメリカの拡大抑止の信頼性をいかに確保するのか、またわが国独自の反撃力の保有によって日本および日米同盟の抑止力をどう強化するのか。新戦略には、日米に韓国も加えた、整合性のある非核化と抑止の理論が求められる。
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