子がいない「中高年単身女性」の知られざる貧困 女性活躍の陰に埋もれ、声すら上げられない

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男女の賃金格差に加え、女性は結婚して専業主婦となり正社員の夫に扶養されるという、「標準世帯モデル」を基に設計された税や年金制度による不利益もある。現役時代の格差や標準世帯モデルから外れたことによる“不利”を老後も背負い続けなければならない。

この状態が続けば、将来さらなる困難が女性たちを襲うことになる。現在40代〜50代前半になっている就職氷河期世代は非正規雇用率および未婚率が高い世代だ。就職氷河期世代が老後を迎える頃、未婚または配偶者と離別した女性の約半数(290万人)が生活保護レベル以下の生活を余儀なくされるというデータもある。

政府は「女性活躍」や「ジェンダー平等」を政策目標として掲げているが、少子化対策と関連した施策が多く、その中心は若年層や子育て世代である。一方で貧困にあえぐ中高年単身女性は存在しないかのごとく扱われていると感じる。そうした時代の空気によって、当事者の女性たちが「声を上げづらい」状況がつくり出されているのではないだろうか。

休業手当を受給した女性は2割

コロナ禍により多くの非正規雇用の女性たちが雇い止めされたり休業を余儀なくされたが、休業手当を受給した女性は2割にとどまった。主たる生計者として働く非正規女性が多いにもかかわらず、非正規で働く女性たちはいまだに「雇用の調整弁」として扱われている事実が浮かび上がる。活躍推進も欠かせないが、足元で今日苦しむ女性たちを見える存在にすることも最重要課題であるはずだ。

貧困や困難をなくすためには、女性の経済的自立が不可欠だ。しかし、それ以前にある男女間賃金格差をなくすこと、雇用や家族形態によって不利益が生じないよう税および社会保障の仕組みを変えていくことなど、社会構造に踏み込んでいく必要があるだろう。

前述のホームレス女性が殺害された事件から、今月で2年が過ぎた。事件直後、渋谷の街で追悼デモが行われた。参加した女性たちが口にしていたのは「彼女は私だ」という言葉だった。声を発することすら封じられている、そのエネルギーすら削り取られているような空気を変えていくことが求められる。

飯島 裕子 ノンフィクションライター

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いいじま・ゆうこ

ノンフィクションライター・大学講師。貧困問題、労働問題を中心に執筆。著書に『ルポ 貧困女子』『ルポ 若者ホームレス』。近著に『ルポ コロナ禍で追いつめられる女性たち』。

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