深刻化し始めた医薬品供給。チラーヂン生産停止で甲状腺機能低下症患者60万人に深刻な影響も【震災関連速報】
東日本大震災の被災により、医薬品の供給に深刻な影響が出る可能性が強まっている。特に供給が問題になっている医薬品の一つが、あすか製薬が製造販売する甲状腺機能低下症治療薬「チラーヂンS」(一般名レボチロキシン)だ。
あすか製薬のいわき工場(福島県いわき市、写真=同社ホームページより)で生産しており、国内シェアは98%(残る2%は外資系製薬企業サンド社が販売)。そのいわき工場を震災が直撃。「いわき市内の高台の工業団地にあったため、津波の被害は免れたものの、建物の一部にひび割れがあったほか、設備の一部に損傷があり、操業を停止している」(あすか製薬広報部)。
そのうえ、原発火災による放射能漏れや停電などで工場の被害状況もきちんと把握できていない。従業員全員の無事が確認されたものの、「放射能被害を防ぐために、従業員および家族がバスで避難を開始している」(同社広報部)という。
チラージンが供給できなくなった場合、患者の生命への影響が深刻になるおそれが指摘されている。
横浜市内で内科診療所を営む森壽生医師(横浜相鉄ビル内科医院院長、神奈川県保険医協会研究部長)によれば、「早期に供給に関する代替措置が講じられない場合、服用患者の命が確実に危険にさらされる」という。
森院長によれば、「厳密な意味では代替薬はない。緊急避難的にチロナミン(一般名リオチロニン)という薬を使用することができるが、1日3回服用(チラーヂンは1日1回)が必要なうえ、すでに手に入りにくくなっている。患者さんの多くはチラーヂンに関する情報を持っておらず、手もとの薬が切れた時点に問題が顕在化するおそれがある」。
あすか製薬によれば、「チラージンを服用している患者は約60万人」(広報部)。チラーヂンの服用ができない場合、「甲状腺機能低下症の症状である倦怠感が強まったり、代謝機能が低下したりする。その結果、むくみが生じたり、心臓の機能が悪化したりする。患者さんの生命にも影響しかねない」(森院長)という。
神奈川県保険医協会は。「チラーヂンSの緊急輸入・海外支援要請を緊急に」と題した声明を発表。「海外からの緊急輸入と海外への支援要請が喫緊。一刻も早く政府の行動が必要。その際、関税や薬事承認緩和など超法規的措置が肝要」と指摘している。
あすか製薬によれば、いわき工場で生産している品目は、チラージンのほかに、ホルモン剤のエナルモン、高血圧症治療薬アムロジピンなど多数。特にホルモン剤は代替生産がききにくく、対応を迫られている。
(岡田 広行 =東洋経済オンライン)
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