日本には、医薬品を適正に保険診療内で使用したにもかかわらず、副作用によって重篤な健康被害が生じた場合に医療費や年金が支払われる「医薬品副作用被害救済制度」があるが、自由診療などで入手した薬で生じた場合は対象外となる。
もし購入したイベルメクチンが正規品だったとしても、問題は残る。岩田さんが危惧するのは、「必要な場所に薬が届かないこと」だ。
「イベルメクチンは、現在も寄生虫の治療薬として、特にアジアやアフリカなどの発展途上国では必要とされている薬です。それが、別の用途で大量に使われてしまえば、本当に必要としている人たちに届かなくなる恐れもあります。リソースを無駄遣いするわけですから、本当にもったいないことです」(岩田さん)
日本人はファクトよりストーリーが好き
科学的根拠に基づく医療、つまりEBM(Evidence-Based Medicine)への理解が進んだはずの現代なのに、どうしてこんなことが起きるのだろうか。「今に始まったことではないんですが……」と、岩田さんが解説してくれた。
「医療者であっても、EBMを理解できない人は一定数います。特に昔は、医者の“さじ加減”で患者さんに薬を処方することも多く、それを今も続けている医師はいると思います。でも、『現場の肌感覚で効果がわかる』などと言う医者はまともではありません。自分の肌感覚を疑い、検証しようとするのが科学的な態度ですし、薬が効くかどうかは二重盲検などの臨床試験できちんと検証する必要があります」
ずっと待っていれば雨が降る日もあるのに「雨乞いをした。雨が降った。だから雨乞いは効いた」と主張することを「3た論法」 というが、「投与した。治った。だから薬は効いた」と主張するのも同じことだ。イベルメクチンについても同様で、「新型コロナの症状は多くの場合、数日で治まります。それをイベルメクチンが効いたと誤認する人がいるということです」と岩田さん。
声の大きい一部の医療者などが根拠なくイベルメクチンを推奨し、それをワイドショーなどのテレビ番組やSNSなどが拡散する。さらに効いたと誤認した体験談が広められていくことで、医療に詳しくない人たちが「新型コロナにはイベルメクチンが効く」と思い込んでしまった、という構図だろう。
「イベルメクチンに固執すると、新型コロナに効く根拠がないということをいくら説明しても、“データが改ざんされている”とか、“製薬会社の陰謀だ”とかと言い出し始める。もうそれは信仰のようなものですから、どうもできないのです」(岩田さん)
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