新型コロナウイルス(以下、コロナ)対策の迷走が続いている。何が原因だろうか。私は、専門家の暴走をチェックするためのシビリアン・コントロールのあり方に問題があると考えている。本稿でご紹介したい。
8月10日、朝日新聞は「コロナ対策 分科会開き議論を尽くせ」という社説を掲載し、専門家を軽視する岸田政権を批判した。確かに、分科会を開催しないことは問題だ。朝日新聞の主張は一見、「正論」だ。ただ、それでいいのだろうか。もし、専門家が間違っていたら、どうなるのだろうか。
8月19日、アメリカ疾病対策センター(CDC)は、新ガイドラインを発表し、アメリカ国民のほぼすべてがワクチン接種と感染で免疫を獲得した現在、感染者の強制隔離や社会的距離は不要との方針を示した。これは経済を活性化させたい政治家や官僚の発言ではない。医学・公衆衛生の専門家の意見なのだ。
日本とアメリカの専門家はどちらが正しいのか
これは「みんなが協力すれば短期間に効果があるので(中略)、『医療非常事態宣言』のメッセージ性に期待したい(尾身茂・コロナ分科会会長、11月11日)」と、第8波の対応で強い規制を求める日本の専門家とは対照的だ。一体、どちらが科学的に「正しい」のだろうか。なぜ、朝日新聞は、日本の専門家の意見が、アメリカのCDCとは違うことを国民に伝えないのだろうか。
私は、このような意見の相違があるときには、発言者の立場を考慮するようにしている。わが国のコロナ対策は、法律に基づいて実施されている。コロナ対策の法的根拠は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)、検疫法、感染症法だ。特措法は内閣官房、検疫法と感染症法を厚生労働省が所管する。厚労省の場合、いずれの法律も健康局結核感染症課が所管するが、局長、課長ポストは医系技官の指定席だ。この結果、コロナ対策は医系技官が仕切る。
この3つの法律のうち、国内の感染症対策を規定するのは感染症法だ。感染症法では、強毒の感染症が流入した場合、厚労省が司令塔となり、国立感染症研究所と保健所が感染者を同定し、国立国際医療研究センター、地域医療機能推進機構(JCHO)、国立病院機構などに入院させる。
このような組織が、独立行政法人などの形で存続しているのは、公衆衛生危機に対応するためだ。その設置根拠法には「公衆衛生上、重大な危害が生じ」た時に、厚生労働大臣は「必要な措置をとることを求めることができる」と応召義務が明記されており、平時から厚労官僚の現役出向・天下り、さらに補助金が措置されている。
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