非モテが「男女平等なんて夢」と暴れ回る切実事情 世界中で問題になっているインセルとは何か

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国際的な社会問題になってきたインセル(写真: マハロ/PIXTA)
エリート会社員や起業家など華々しい男性にスポットライトが当たる一方で、特別な才能がなくお金持ちでもない中高年男性にとって、参考になる生き方のモデルは多くない。「弱さ」を抱えた男性の生き方を論じた杉田俊介氏の著書『男がつらい! - 資本主義社会の「弱者男性」論』から一部抜粋してお届けしします。

インセル(非モテ)とは何ものか

近年、非モテ(Incel)の存在が注目されている。インセルたちの反逆や暴力という現象が国際的な社会問題になってきたからだ。

IncelとはInvoluntary Celibateの略語である。望まない禁欲者、非自発的な独身者、というような意味だ。もともとはカナダの女性がウェブ上で用いた言葉で、当初は女性嫌悪やアンチ・フェミニズムなどの意味合いは含まれていなかったという。

しかしやがて、非モテを自覚あるいは自称する当事者男性たちが、匿名掲示板などでインセルという言葉を積極的に用いるようになった。彼らの言動は、女性憎悪、暴力肯定、人種差別などと深く結びついてきた。

ひとまず重要なのは、インセルたちは必ずしも経済的な貧困層に属しているわけではないし、あるいは政治的マイノリティであるとも限らない、ということだ。インセルを語る上では、彼らの独特な孤独感、尊厳の傷つきや剥奪感がポイントとなる。

ちなみに拙著『非モテの品格──男にとって「弱さ」とは何か』はまさにタイトル通り、インセルにとって尊厳とは何か、という問題を自分事として試行錯誤するものだった。

インセルのカリスマ的存在とされるのが、エリオット・ロジャーである。2014年5月23日、米国カリフォルニア州アイラビスタで起きた銃乱射事件の犯人だ。

ロジャーはYouTubeに犯行予告動画を投稿、犯行声明文(自伝)を家族や知人、療法士に送信したあと、事件を起こし、6人を殺害、13人を負傷させ、直後に自殺した。享年22歳だった。

ロジャーはその長大な声明文において、白人のブロンド女性と交際したいのに相手にされない、女性たちがヒスパニックや黒人の男性と付き合っているのが許せない、などと主張した。

またアレク・ミナシアン(犯行当時25歳)は、2018年4月23日、カナダのトロントで、車を暴走させ次々と歩行者をはねた。10人が死亡、15人が負傷した。

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