最後に紹介したい、万葉集の遊べる読み方。コツがわかった方は、ぜひ以下の「馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿」の箇所の読み方をいっしょに考えてみてほしい。
(母が飼い育てる蚕の繭ごもりのように、あの人に会えないのは苦しいよ)
「馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿」……ものすごく長い表記ではあるが、これも7音で終わるのだ。ヒントといえば、「馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿」はすべて動物関係の漢字で表記してあること。動物の声や音のことを考えると、正解がわかるかもしれない。
さてわかった方もいるだろうか。
正解は「いぶせくもあるか」。
まず最後の「くもあるか」→蜘蟵=蜘蛛=クモ、荒=アル、鹿=カ、はわかりやすいかもしれない。
問題は「いぶせ」=「馬聲蜂音石花」だ。
① 馬聲=馬の声は、当時「イイーン」と聞こえていたらしい。だから「イ」。
② 蜂音=蜂の音。蜂はブンブン鳴くので、「ブ」。
③ 石花とは、砂浜の岩石に付着している貝のこと。今でいうカメノテの古名である。「セ」。
明らかに漢字で遊んでいる。研究者泣かせの読み方である。
万葉集の時代から漢字は遊びの対象
私はこういう万葉集の戯書を見るたび、「現代のキラキラネームと発想が同じだ……」と思う。例えば、昨今は「泡姫」と書いて「ありえる」と読ませる子もいるらしいのだが、これも結局は「泡になったお姫様=人魚姫=アリエル」という文脈がないと成立しない読みかたである。万葉集もまた、「馬の声=イイーン」という文脈を共有していないと読めない。
文字というのは、いつまでも変わらない、普遍のもののように思えるけれど。時代の共有文脈によって、実は遊びの余白も増える。
たまに「正しい日本語を使っていない」とヤンキー言葉やキラキラネームが批判されたりもするけれど。私は、万葉集の時代から漢字って遊びの対象だったんだから、もっと遊んでもいいのでは……?と思っている。
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