もはや大喜利!万葉集「二八十一=憎く」と読む訳 ヤンキー用語やキラキラネームと同じ発想

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最後に紹介したい、万葉集の遊べる読み方。コツがわかった方は、ぜひ以下の「馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿」の箇所の読み方をいっしょに考えてみてほしい。

たらちねの母が飼う蚕の繭篭隠り 馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿 妹に逢はずして(巻12・2991)
(母が飼い育てる蚕の繭ごもりのように、あの人に会えないのは苦しいよ)

「馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿」……ものすごく長い表記ではあるが、これも7音で終わるのだ。ヒントといえば、「馬聲蜂音石花蜘蟵荒鹿」はすべて動物関係の漢字で表記してあること。動物の声や音のことを考えると、正解がわかるかもしれない。

さてわかった方もいるだろうか。

正解は「いぶせくもあるか」

まず最後の「くもあるか」→蜘蟵=蜘蛛=クモ、荒=アル、鹿=カ、はわかりやすいかもしれない。

問題は「いぶせ」=「馬聲蜂音石花」だ。

① 馬聲=馬の声は、当時「イイーン」と聞こえていたらしい。だから「イ」。

② 蜂音=蜂の音。蜂はブンブン鳴くので、「ブ」。

③ 石花とは、砂浜の岩石に付着している貝のこと。今でいうカメノテの古名である。「セ」。

明らかに漢字で遊んでいる。研究者泣かせの読み方である。

万葉集の時代から漢字は遊びの対象

私はこういう万葉集の戯書を見るたび、「現代のキラキラネームと発想が同じだ……」と思う。例えば、昨今は「泡姫」と書いて「ありえる」と読ませる子もいるらしいのだが、これも結局は「泡になったお姫様=人魚姫=アリエル」という文脈がないと成立しない読みかたである。万葉集もまた、「馬の声=イイーン」という文脈を共有していないと読めない。

文字というのは、いつまでも変わらない、普遍のもののように思えるけれど。時代の共有文脈によって、実は遊びの余白も増える。

たまに「正しい日本語を使っていない」とヤンキー言葉やキラキラネームが批判されたりもするけれど。私は、万葉集の時代から漢字って遊びの対象だったんだから、もっと遊んでもいいのでは……?と思っている。

三宅 香帆 文芸評論家

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みやけ かほ / Kaho Miyake

1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。天狼院書店(京都天狼院)元店長。2016年「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」がハイパーバズを起こし、2016年の年間総合はてなブックマーク数ランキングで第2位となる。その卓越した選書センスと書評によって、本好きのSNSの間で大反響を呼んだ。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)、『人生を狂わす名著50』(ライツ社刊)、『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)など著書多数)。

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