たいていは現代人も苦労なく読める万葉仮名。しかし、なかには研究者ですら、今なお「何て読むのこれ」と当惑している事例が多々ある。全部が「茜草指」ほど簡単な読みなわけではない。意外と凝った読み方をすることもある。
万葉集の研究者は、日々「この漢字は、こう読むのでは!?」という発見と考察を繰り返し、論文を世に送りこんでいるのだ。
例えば、こちらの歌。
(原文:若草乃新手枕乎巻始而夜哉将間二八十一不在國)
「二八十一」をどうやって読むか、ぜひ少し考えてみてほしい。
九九を使ったダジャレ
「二八十一」……和歌だから、五・七・五・七・七のリズムになるはず。すると最後の「あらなくに」で5音使っちゃってるから、「二八十一」は2音か3音くらいになるはずだ。当然だが「にひゃくはちじゅういち」じゃ字数オーバーしてしまう。
さて、正解はこちらだ。
(結婚したばかりの妻とはじめて夜を過ごした、いまは一夜だって離れたくない……妻はこんなに可愛いのに)
読み方は「にくく」。思いついた方はいるだろうか。いったい、なぜ「二八十一」を「にくく」と読むのか。小学校の算数を思い出してほしい。
「二」=「に」、「八十一」=「くく」。そう、八十一=九九=くく、つまりは九九を使ったダジャレなのである。
万葉集には、このように遊びのような表記がしばしば紛れ込んでいる。ちなみに、8世紀の木簡にはすでに「九九」が書かれていたらしく、中国から伝来していたことがわかっている。平安時代の貴族の遊びには「九九」が使われていたらしい。だからこそ、万葉仮名に九九が使われていても、時代から考えるとおかしくはないのだが。それにしたって遊びが過ぎる。
このように、わざと通常とは異なる漢字をあてて読ませることを、「戯書」と呼ぶ。たわむれ=遊びの書き方のことだ。今でいう大喜利のような遊びを当時もしていたんだろう。
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