と、『あなたのブツが、ここに』について述べてきたが、これらは、ドラマの魅力について、あくまでも補論にすぎない。
先に「現実と格闘」と書いたが、ドラマの魅力の本質論は、「現実感」「現実との密着感」だ。視聴者であるわれわれも、この数年、同時体験してきたコロナ禍という「現実」が生む、疲労感・徒労感、何とも言えないやるせなさが、これでもか・これでもかと詰まっているのだ。
私は最近、現代を舞台設定にしたドラマや映画を見るとき、まず「これ、コロナあり前提? なし前提?」を確認する。もちろん、多くの作品は「コロナなし前提」なのだが、その瞬間、現実との距離を感じて、ちょっとだけさめる。
ところがどうだ。『あなたのブツが、ここに』は、「コロナあり前提」どころか、コロナ給付金詐欺に始まって、パワハラ、セクハラ、いじめ、自殺、毒親、ストーカー……と、コロナ禍を軸としたダークネスがフルスペックの「全部入り」。
ドラマや映画の批評でたまに見るフレーズに「(この作品には)善人しか出てこない」というのがあるが、それふうに言えば、『あなたのブツが、ここに』は――「弱者しか出てこない」。
ドラマ版「令和のブルーハーツ」
話は変わるが、私は50代の音楽評論家として、「令和のブルーハーツ」がブレイクするのを待望している。ブルーハーツとはいうまでもなく、バブル景気で盛り上がり、バブル崩壊で転げ落ちた、あの忙(せわ)しない日本に漂っていたダークネスを歌い、弱者の心をわしづかみにしたバンド。
だとしたら、このコロナ禍の令和、ダークネスと弱者がウヨウヨしている時代において、ブルーハーツのようなバンドがなぜ出てこないだろう、100組くらい出てきてもいいのにと考えるのだ。
話を戻すと、『あなたのブツが、ここに』は、ドラマ版「令和のブルーハーツ」のように、私には見える。
主題歌はウルフルズ『バカサバイバー』(2004年)だが(この曲を歌い踊る仁村紗和もとてもいい)、「♪弱いものたちが夕暮れ さらに弱いものを叩く」と、まさに令和の世を歌っているようなブルーハーツ『TRAIN-TRAIN』(1988年)でもよかったのではないか。その「トレイン」とはもちろん、兵庫県尼崎を通る阪神電車だ。
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