東京からもっとも近い被災地・浦安(1) 鉄鋼団地には大きな被害があった

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東京からもっとも近い被災地・浦安 現地ルポ【上】 産業編

今回の東日本大震災で大きな被害を受けたのは、岩手県、宮城県、福島県の東北3県だ。そのため、千葉県浦安市の被災状況について報じられることはほとんどない。しかし、そのことは震災被害の小ささを意味しているわけではない。

東京湾岸でもっとも大きな被害を受けた地域は、コスモ石油の石油精製コンビナートが炎上した市原市であろう。が、浦安市も、元町地区(内陸部・東京メトロ東西線浦安駅周辺)を除く埋立地域がいたるどころが液状化し、水分を含んだ大量の土砂が地表に噴出。多くの道路に亀裂が走ったほか、木造住宅が傾くなど大きな被害が発生している。

震災から3日を経過した「東京からもっとも近い被災地」の被害状況と復興への歩みについてルポする。

鉄鋼団地も液状化で多くが操業停止

交通手段として選んだのは自転車。まずは自宅のある江戸川区南の西葛西から、さらに南の海べりにある葛西臨海公園へ向かう。ふだんは多くの観光客、散策する人々でにぎわう葛西臨海水族園にはほとんど人影がなく、見ごろを迎えた梅の花の写真を撮影するお年寄りが何人かいた程度。

 同公園の中心的存在である葛西臨海水族園は入り口が閉鎖されており2人の従業員が門の前に立っている。続いて駅へ向うと、京葉線が運休のため入り口はシャッターが閉まった状態だった(1)。


(1)シャッターが閉まったままの京葉線・葛西臨海公園駅



 葛西臨海公園も、浦安と同じく埋立地である。しかし液状化により噴き出した土砂の痕跡を発見できなかった。公園はいたってきれいで、敷石にも乱れはない。

ところが舞浜大橋を渡り、浦安市に入ると風景は一変した。舞浜大橋を降りるとそこは舞浜駅の周辺なのだが、道路はがたがたになっていた(2)。


(2)舞浜大橋をわたって浦安市内に入ると道路はガタガタに

ここから閉鎖されている東京ディズニーリゾートを横目で見ながら「浦安鉄鋼団地」に向かった。住所は鉄鋼通り1丁目~3丁目。鋼材の流通商社や加工業者が220社ほど、ずらりと並ぶ、日本一でアジアでも最大級、鉄鋼流通基地だ(3)。高度経済成長期に木場にあった木材流通業が埋立地の新木場へ、東陽町にあった鉄鋼流通業が浦安の埋立地へと移転し誕生した経緯がある。 


(3)鉄鋼通り1~3丁目には多くの鉄鋼流通会社が集積している


 東京ディズニーリゾートのすぐ横には浦安市運動公園があり、その向かいが鉄鋼団地の西端となる。驚いたのは、浦安市運動公園の駐車場入り口付近の道路の荒れ具合。歩いて通るのも危険な状態だ(4)。電柱や街路樹も大きく傾き、道路にも大きくひびが入り、噴射した土砂が乾いてさらさらになった真っ白な粉塵がつみあがっている。その粉塵が乗用車やトラックが通るたびに舞い上がるため、視界は白く曇っている(5)。この浦安市運動公園の真向かいにあるのが粂田鋼材。復旧作業に追われる粂田晋一朗社長に被災の状況を聞いた(6,7)。 


(4)浦安市運動公園周辺は道路の隆起陥没がもっとも激しい地域だ
 

(5)電柱、街路樹が傾き、道路のアスファルトにも大きな亀裂
 

(6)粂田鋼材の粂田晋一朗社長
 

(7)粂田鋼材の外観

--道路から工場へ向かって大きく下がっているように見えます。

もともとは道路から建物まで水平だった。ところが、今回の震災により浦安鉄鋼団地全体が40センチメートルほど沈下したようだ。

--建物の中はどのような被害を受けましたか。

当社は浦安市が第一次埋め立てを行ったとき、1969年にこの工場を建てており、団地の中でももっとも古い建物のひとつだ。そのため、建物のくいが深く下まで入っているわけではない。

 工場内の床からも泥が吹き上がり、真ん中が陥没した。天井のクレーンや加工機械が水平ではなくなってしまったので、操業は完全に停止。鋼材の加工を行うことはできない(8)。


(8)建物が傾き建物内の床も中央部分が陥没

--震災の揺れで大きな事故は起きなかったのか。

たまたま仕事が少なかったので大きな事故にならなかった。もしクレーンで大きな鋼材を吊り下げているような時に大きく揺れたとしたら大変な事故になっていたと思う。

--震災発生からこれまでにどのような対応をしましたか。

20名ほどの社員がいるので、事故発生直後はまず自宅に引き上げてもらうことを先決にした。そして土曜日、日曜日は余震などの影響で状況が不安定だったので、簡易トイレの設置を依頼するなど業者の手配などにとどめ、本格的な復旧は今日からだ。まずは泥を取り除くことから始めている。

この建物は築40年以上と古いものだが、2年前に2000万円掛けて補強工事を行ったばかりだった。当面は立て替えなくても大丈夫というふうに思っていたのだが、建物自体が傾いてしまったので、完全に復旧するまでには1カ月以上は掛かるかもしれない。

※ ※ ※

浦安鉄鋼団地協同組合の加藤里行専務理事に被害の状況を尋ねると「12日に被害の状況をヒアリングするためのアンケートをFAXしたが各社ともまずは自分のところの復旧で精一杯のようだ。そのため現時点では集計をできていない。でも、工場団地の中を歩けばどれだけ大変なことになっているかがわかるでしょう」とのことだった。

 確かにほとんどの工場は大量の土砂の整理整頓に悪戦苦闘している状態。操業している会社など、ほとんどなさそうだった(9)


(9)土砂を除去するだけでも一苦労。いたるところに土の山ができていた

 

上下水道が止まっているためホテルも休業

鉄鋼団地における鉄鋼加工業だけでなく東京ディズニーリゾート(TDR)を軸とした観光産業も大きな痛手を受けた。粂田鋼材の近くにあるのが、「SPA&HOTEL舞浜ユーラシア」だ(10)。

ホテルの入り口を訪ねるとSPAとホテルの両方に「営業休止」の張り紙が掲げられており、人影がない。ホテルに入ろうとしたのだが、カギが閉まっている。そこであきらめかけたのだが、中へ入ることができるドアをひとつ見つけ、フロントにいた従業員に取材をしたい旨を伝えた。

しばらくして表れたのが、三浦至総支配人と管理部の山本俊治部長代理。復旧作業で忙しいさなかに「破損した場所の撮影などをしないのであれば」との条件のもと、取材に応じてくれた。

三浦総支配人は「駐車場などが破損したが、躯体構造にはまったく影響を与えていないので建物自体は安全だ。現在、営業を止めているのは上水・下水が止まっているため、ということに尽きる。ガスも電気も来ているが、上下水がなければホテルもSPAも運営できない」と話してくれた。

もちろんホテルだけでなく水を使うようなサービス業はどこも閉鎖を余儀なくされている。埋立地ではない元町地区を除く浦安市内の企業・市民が共通で味わっている災難である。浦安の上下水はいつ復旧するのか。続いて、浦安市役所へ向かった。【(2)に続く】

■東京からもっとも近い被災地・浦安(2)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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