ロシアにとっての戦争は「イデオロギー的な実践」 戦争はロシア正教会で肯定された「神聖な行為」

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ロシアにとって戦争とはどういうものなのか、亀山氏が解説します(写真:Ryhor Bruyeu/PIXTA)
ウクライナ国民はもちろんロシア兵にも多大な犠牲者が出ているウクライナ侵攻。日本人にとっては、戦争は絶対に起こしてはならないものだが、ロシアにとって戦争とはどういうものなのか。
本稿では元ロシア外交官である亀山陽司氏著『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』より、ロシアにおける戦争とイデオロギーについて解説する。

ロシアにとって戦争とは、単なる防衛でもなく、単なる侵略でもない。それは巨大な「祝祭」であり、国民によって何度も追体験されるべき歴史的記念碑であり、イデオロギー的な実践なのである。

祝祭といったからといって、ロシアが戦争をめでたいこととして祝っているという意味ではもちろんない。戦争には巨大な犠牲を伴う。誤った戦争のために国家が崩壊する危険にも直面している。祝祭というのは、戦争によって数多くの命や莫大な富が蕩尽されるからである。

戦争による犠牲は祖国を防衛した栄光

そして、戦争による犠牲は単なる悲劇として記憶されるのではなく、祖国ロシアを防衛したという記念すべき、そして祝うべき栄光として記憶されるからである。

ロシアでは、法律によって19の「軍事的栄光の日」が定められている。主要なものを列挙してみると以下のとおりである。

1242年のアレクサンドル・ネフスキーによるドイツ騎士団に対する勝利(チュード湖の戦い、氷上の戦い)
1380年のドミトリー・ドンスコイ(ドミトリー3世)によるモンゴル・タタール軍に対する勝利(クリコヴォの戦い)
1770年のトルコ艦隊に対する勝利(チェスマの戦い、第1次露土戦争)
1709年のピョートル大帝によるスウェーデンに対する勝利(大北方戦争、ポルタヴァの戦い)
1714年のピョートル大帝によるスウェーデン海軍に対する勝利(大北方戦争、ハンゲの戦い)
1790年のスヴォーロフ将軍によるトルコ要塞「イズマイル」の陥落(第2次露土戦争)
1790年のウシャコフ将軍によるトルコ海軍に対する勝利(テンドラ島沖の海戦、第2次露土戦争)
1812年のクトゥーゾフ将軍によるナポレオン軍とのボロジノの戦い
1853年のナヒーモフ将軍によるトルコ艦隊に対する勝利(シノプの戦い、クリミア戦争)
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