国際芸術祭「あいち2022」から見る芸術の本質 「あいちトリエンナーレ」から再スタートを切る

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塩田千春《糸をたどって》(2022年)展示風景(撮影:小川敦生)
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「STILL ALIVE」をテーマに掲げた国際芸術祭「あいち2022」が名古屋市を中心にした愛知県の4地区で10月10日まで開催中だ。

「まだ生きている」を意味する「STILL ALIVE」は、愛知県出身の現代美術家、河原温が1970年代以降、多くの知人に送った電報を作品にした《I Am Still Alive》シリーズに由来する。そしてこの言葉が、疫病や戦争に翻弄される近年の世界に大きな意味を持ちうるのは確かだ。「STILL」という言葉の意味をことさら重く感じるのは、筆者だけではないのではないだろうか。

とはいえ、芸術祭ではまず、出品された多様な作品の一つ一つを味わい楽しむことから始まる。報道やドキュメンタリー映画のようにテーマにがちんこで取り組んだ媒体とは違って、才能豊かなアーティストたちが展開した多様なアプローチと思いもよらないような表現の作品が多数出品され、受け止め方も多様でよしとされているからだ。

一つ、お断りしておきたいのは、2019年の「あいちトリエンナーレ」が、企画の1つとして展示した「表現の不自由展・その後」をめぐって脅迫や展示の見合わせ等を含む大きな社会的事件となったことを踏まえて、今回、日本語の名称を変えて再スタートを切ったことについてだ。

「あいち2022」の芸術監督を務めている片岡真実・森美術館館長は、「新たな芸術祭として開催した」ことを強調する。筆者が見た限りでは、真っ向から現状における政治批判をしている作品はなかった。だからといって、上っ面が美しい作品だけが並んでいるわけでもない。本記事で紹介できるのは出品作のほんの一部ではあるが、芸術の本質が作品を通じてどんな形で表れているのかを、改めて見渡していきたい。

最初に出迎えてくれたのは6つの振り子

小野澤峻「演ずる造形」
小野澤峻の《演ずる造形》(2021年)展示風景(撮影:小川敦生)

「あいち2022」の中心会場は、名古屋市の中心部にある愛知芸術文化センターである。建物に入って出迎えてくれたのは、地下2階にある小野澤峻の《演ずる造形》(2021年)という、6つの振り子が交差するように動く作品だった。

ワイヤーで吊るされたおもりでできた振り子が動き始めると、しばらくの間、鑑賞者は動きのゆくえを見つめることになる。そして、かなり大胆な動きをしているのにぶつからないことに気づく。動きはコンピューターのプログラムで制御されているのだ。

ただし、しばらくするとぶつかり始め、その後ぶつからない状態に戻る。作者の小野澤はもともとジャグリング・パフォーマーとして活動してきたことから、この作品の発想を得たようだ。それゆえタイトルにも「演ずる」という、振り子を人間に見立てた言葉が入っているのだろう。

さて、この作品が人々にどう響くのか。人間は常日頃から調和と衝突の中で生きている。生きているからこそ、調和を目指しながらもぶつかることがあるのだ。ぶつかるなら美しく、その後の調和を目指したい。そんな思いを持って作品に臨むのが、まっとうな鑑賞法だ。

しかし、虚心坦懐に振り子の動きを追い、しばらくしてぶつかりに興じるのも悪くない。ぶつかりや摩擦があるからこそ生じる調和もあるのではなかろうか。個人個人が記憶をたどって、後にこの作品のことを思い浮かべると、ぶつかりが生じたときに心に変化が起きるかもしれない。

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