国際芸術祭「あいち2022」から見る芸術の本質 「あいちトリエンナーレ」から再スタートを切る
今回、会場エリアの一つとなった一宮市は、繊維業が栄えた土地柄だ。ここでは、ヴェネチア・ビエンナーレなどの国際美術展にも出品歴を持つ塩田千春の、圧倒的に美しい作品を紹介しておきたい。
採光のためにしつらえられたのこぎり型の屋根を持つ「のこぎり二」という、旧毛織物工場の建物の中の一画に、鮮烈な赤い糸が張り巡らされていた。塩田千春の《糸をたどって》(2022年)という作品だった。糸には糸巻きの芯や織物機などが絡められている。鑑賞者は、町の記憶に接していることになるのだろう。
しかし、なんと美しい光景なのだろうと思う。実物を目にすれば、おそらく脳裏に焼き付いて離れなくなるのではなかろうか。赤い糸に血を見るか、絆のような観念を見るか、がんじがらめになって何かから逃れられない人間の本性を見るか。どう見るのも自由だが、ときどきふと作品のことを思い出して、解決不能とも思える問題と向き合った時に何か美しい解決法がないのかを志向することができないかを探れればとも思うのだ。
青を基調とする陶の作品
同じく会場エリアの一つとなった常滑市は、陶の町だ。旧丸利陶管という土管工場の建物で作品を展示しているキューバ生まれのグレンダ・レオンは、音を素材にしたさまざまな表現に挑戦している。ピアノ線の雨、ギターの弦が作った星座、タンバリンの月…。たたいたりはじいたりする作品もある。
一室に、青い山脈を模したような陶の作品が置かれていた。1977年にNASAが打ち上げたボイジャー探査機に搭載したレコードに収録した地球上のさまざまな音の波形を描き起こし、立体化したやきものだという。レコードに収録されているのは鳥、コオロギ、馬、火山、列車などの音だ。いわば地球の営みを収録しているとも解釈できるのではないか。そしてそうした営みを、土という媒介を通して物質化することで、現代の人間は地球そのものと向き合うことになるのではないか。目にしたときには、美しい陶作品として鑑賞したが、由来を聞いて、それらが地球の営みの痕跡であることを知った。この芸術祭のテーマである「STILL ALIVE」についても、考えさせられた。
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