国際芸術祭「あいち2022」から見る芸術の本質 「あいちトリエンナーレ」から再スタートを切る
「あいち2022」の名古屋市の中心部以外の会場をめぐると、それぞれの地域の個性が見えてくる。名古屋市の有松地区には、この芸術祭がなければ訪れることがない人も多いのではないだろうか。筆者は、「絞りの町」として知られ、江戸時代を思わせる古くて美しい町並みが今でも残っていることを、訪れた日に知った。
町の随所に、細くてカラフルな暖簾のようなものがかかっていた。タイ生まれのミット・ジャイインの作品だ。古い町並みには異物となりかねないものなのに、風にゆらめき、新たな心地よさを町にもたらしていた。
古い家屋の中で展示されていた映像作品
有松地区の岡家住宅という古い家屋の中で展示されていたAKI INOMATAの映像作品は、有松絞りの端切れ布をミノムシに渡してまとってもらうという、斬新なものだった。ミノムシが普段まとっている蓑(みの)にはもとから独特の風情があるが、有松絞りの端切れ布を羽織ったミノムシは、映像の中で格別の美しさを見せていた。
INOMATAは、生物と向き合って芸術作品を制作するという行為を続けてきた。さらにここでは、ミノムシが羽化した後のミノガの翅(はね)に見られる模様をモチーフに、新しい絞り染めの技法を考案した。人間のわがままが通ってきた地球上における生物との共生について、改めて考えさせられた。
こうした作品を見つつ、有松地区に今も多くある絞りの店を訪ねること自体が、文化を実感する体験となる。店先に並んでいる絞りが本当に美しいのである。それはこの町に来てみなければわからない。芸術祭はそのきっかけを与えてくれる。
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