筆者が実生活で聞いた中で、ひとつだけ忘れられないスピーチがある。バブルの超末期に読売新聞社に滑り込み入社を果たした筆者が「あの方」をはじめてお見かけしたのは、本社の最上階で行われた入社式の会場だった。
その年、ちょうど社長に就任されたナベツネこと渡邉恒雄社長は60代の半ば、登場した瞬間からすさまじい威圧感を醸していた。その後の人生で多くの経営者にお会いしたが、「場の支配力」という点では、あの日の社長を超える人はそうそういない。イギリスの宰相チャーチルを彷彿させる存在感に、鋭い眼光、独特のべらんめえ調だった。
「私は遠からぬ将来に死ぬであろう」
話の内容は、というと、説教がましい内容や堅苦しいあいさつはほとんどなく、時流の解説などを気の赴くままに、という感じで、実に生々しくて面白かったのだが、何より印象に残ったのが、自分の死に支度の話であった。「私は遠からぬ将来に死ぬであろう」と言い切ってから、そのために葬式の際の音楽まで決めてあって、秘書にそのテープを託していることなどをとうとうと語ったのだ。
幸いにして、その後もお元気に活躍され、筆者の父親の命まで救っていただき(「渡邉会長、この場を借りて心より感謝申し上げます」)、4半世紀を経た今日まで、存在感を発揮されていらっしゃるわけだが、あの時の話は今でも強烈に心に残っている。教訓めいたものを残そうとしたわけでもなかったと思うが、個人的には「人生には必ず終わりがあり、その時を見据えながら、一日一日を精一杯生きていかねばならないのだ」と勝手に解釈して、胸に刻んできた。
もちろん、こんな荒唐無稽なあいさつは彼だから許されるもの、と言えるかもしれないが、皆さんがスピーチを、聞く人の心に届かせ、刻み込みたいと思うのであれば、「常識を超えるサプライズ」を準備するのもひとつの手だ。
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