「サプライズ」ということで有名なスピーチにビル・ゲイツ氏のTEDでの講演がある。マラリアの撲滅運動に熱心に取り組むビル・ゲイツ氏。マラリアが蚊によって伝染するということを訴えるために、蚊を入れた瓶のふたを会場で開け、放したのだ。
「マラリアは蚊によって伝染します。今日は、皆さん方に経験していただくために、蚊を何匹か連れてきました。(蚊に)会場をちょっとうろついてもらいましょう。何も貧しいひとだけがこういう経験をすることはないのですから。大丈夫、この蚊はマラリアに感染はしていませんからね」。会場は沸きに沸いた。
スティーブ・ジョブズ氏に比べて、プレゼンがそれほど上手ではないとされてきたゲイツ氏だったが、このスピーチは高く評価され、その名声は一気に高まった。
まさに、「サプライズ」の仕掛けが普通のスピーチを「エピックスピーチ」に変えたのだ。
前回、ご紹介したトーストマスターズのニューヨーク地区大会に筆者が参加した際、ひときわ異彩を放つスピーチを披露して、観客の喝采をさらった人がいた。ブルックリンの高等学校の副校長、マーク・ウィリアムズさん。俳優のエディ・マーフィーをほうふつさせる風貌と軽快な語り口であっという間に観客を引き込むと、「こんなことはみなさんの前ではしたくないんですが」と言いながら、スーツのパンツを脱ぎ始め、運動着のショーツ姿になった。
なぜパンツを脱いだのか
話のテーマは「Short on confidence」(自信不足)。自分の脚の形に自信がなく、ショーツをはくことができず、ジーンズやスウェットパンツで陸上競技に参加し、負けた思い出を語り、「恥ずかしがって、自分の殻を破らなければ何事もできない」というメッセージを訴えた。shortとショーツを掛け合わせ、視覚と聴覚のサプライズで見た人の記憶にとどめる仕掛けだ。
このスピーチが評価され、ウィリアムズさんはトーストマスターズの世界大会にまで進出した。大学を卒業してから20年近く、同じ学校で英語の教師を務めてきたが、5年前にトーストマスターズに参加してから、めきめきとスピーチのスキルは上達。世界大会への出場などを契機に、自分の経験をつづった本まで出版し、地域や学校の若者などにコミュニケーションスキルの重要性を説いて回っている。
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