菅義偉前首相の「聴いて、聞かない力」の正体とは 「口下手でも、人を動かす力」の源泉、意外な素顔

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犯罪も微減でした。「いままで何をやっていたんだ」と言いたいところでしたが我慢して、「よく頑張っている」と言っておきました(笑)。

たぶんこうした「当たり前だけど、できていないこと」が、まだまだいっぱいあるんじゃないかと思います。こうしたものを変えていくことが政治家の役目だと思っています。

――側近だった方とお話ししていると、市井の人の声にはしっかり耳を傾ける一方で、菅さんの強みは抵抗する官僚の反対を押し切り、説き伏せる突破力であり、すごみであったと。ある意味、意見や事実は「聴いて」、抵抗勢力や数の力には屈しない「聞かない力」こそが、この実行力の源泉であったのかもしれないとおっしゃっていましたが、どうでしょうか。

私の判断軸は、「国民にとって当たり前のことかどうか」ということです。

当たり前のことを当たり前にやろうとしても、縦割りだとか、前例主義だとかがありますから、そういうのを壊していく力というのは、よほど自分が自信を持ってやらなきゃダメなんですよね。

そのためには、ただ「聞く」だけにとどまらず、幅広く情報を収集し、事実を見極めることが大切です。説得には、客観的事実が一番強いと思います。

官僚は優秀ですが、前例に強く縛られますよね。先輩もいますし、思い切ったことを言えなくて、できないわけですよ。ダメな理由は何か、まずは「できない」という彼らに対して、徹底して「事実」を示して説得しました

たとえば、迎賓館が東京と京都にあります。総務大臣のとき、はじめて迎賓館に入って、すばらしかったので両親を連れていってあげたいと思っていたら、「いや、できないです」と言われたんです。せっかくのすばらしいものなのに、1年間に夏の2週間だけ抽選で公開していただけでした。

それで官房長官になって、これを開放すると言ったんです。そうしたら、「できない理由」ばかり言ってくるわけですよ。国家元首が泊まる前後の準備と片付けに20日必要だとか、空調の点検整備に1カ月かかるとか、いや、これはもう真面目な顔をして言ってくる。

そこで、「海外の迎賓館ではどうなのか」など徹底的に現場の情報を集め、事実を示して説得し、最終的にコロナ前で年間250日くらい国民の皆さんに開放することができました。

これも「国民にとって当たり前のことで、これまでできていなかったこと」です。こうしたことを1つひとつ、解決していくことが、私の仕事だと思ってきました。

先送りをやめ、最高責任者として判断をし、責任をとる

やはり大切なのは「本質的に合っているかどうか、正しいかどうかじゃないか」ですかね。人を動かすというのは、そういうことじゃないかな。議論が終わっても何もしないのが、一番嫌いなんです。

議論が出尽くしたものについては、やはり最高責任者として判断をして、責任をとる、先送りするのはやめよう。そういう思いでやっていました。

次世代リーダーのコミュ力育成のために岡本氏が立ち上げた「世界最高の話し方の学校」の特別講師として登壇した菅義偉前首相(写真:筆者提供)
岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

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おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

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