児童相談所職員と虐待親の世に知られていない姿 短編映画「ほどけそうな、息」が伝えるリアル
政府は2019年、児童福祉司の2000人増員をはじめとする児相の体制強化を打ち出した。しかし、せっかく採用した職員も、離職してしまっては元の木阿弥だ。川上さんは職員の待遇改善とともに、若手の孤立解消の取り組みなども必要だと訴える。
「多くの若手職員が、仲間と悩みを共有したい、ほかの児相の仕事ぶりを知りたい、と願っています。職場側が広域での合同研修などを通じて、ネットワークづくりをサポートする必要もあると思います」
「キーバーソン」を見誤ると、虐待は深刻化
目黒区の船戸結愛さん事件(2018年)、千葉県野田市の栗原心愛さん事件(2019年)など、悲惨な虐待死事件が起きるたびに、再発防止の重要性が叫ばれてきた。しかし今年6月にも、大阪府富田林市で2歳女児が家に放置されて死亡し、祖母らが保護責任者遺棄の疑いで逮捕された。岐阜県、広島県、神奈川県など多くの都道府県で、2021年度の虐待相談対応件数も過去最多を更新している。
なぜいたましい事件はなくならないのか。川上さんは児相側が「家庭を支配するキーパーソン」を見誤ったとき、事態が深刻化するリスクが高まると指摘する。
結愛ちゃん事件で児相が主にアクセスしていたのは、虐待を加えていた義父ではなく母親だった。
「父親は日中働いていることが多く、物理的に会いづらいという事情もあります。妻が夫に支配されている場合、児相職員が母親を通じて家庭を改善しようとすると、母親をさらに孤立させ、追い込んでしまう恐れもあります」
また心愛さん事件では、児相側は一時保護した心愛さんを祖父母宅に帰したが、加害者である父親が勝手に自宅へ連れ帰った。児相は女性比率が高いこともあり、特にキーパーソンが攻撃的な父親の場合、職員はひるんでしまいがちだという。
こんなときは経験豊富な児童福祉司(スーパーバイザー)がキーパーソンを見極め、接触するよう担当職員を指導する必要もあると、川上さんは語る。
「私たち職員は、面談の間父親に怒鳴られるだけですが、怒りが子どもに向けられたら、身体や命が危険にさらされかねません。キーパーソンに接触し『つねに見守っていますよ』という姿勢を示すことで、加害の抑止効果も期待できます」
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