児童相談所職員と虐待親の世に知られていない姿 短編映画「ほどけそうな、息」が伝えるリアル
「中には『帰宅して家が無音だと、担当する親子のことで思い悩んでしまうので、つねにテレビをつけっ放しにして気を紛らわせている』という人もいました。24時間、仕事のことを考えずにはいられないとは、なんと大変な職業だろうと思いました」
日常業務も、精神を削られることの連続だ。親から、そして時には子ども自身からも必死で抵抗されながら、強制的に両者を引き離す。「子どもを返せ」と迫る親と信頼関係を築き、生活の立て直しを支える。両親だけでなく行政の支援機関や病院、学校、保育園、祖父母ら関係者との調整も必要だ。多くの若者は「子どもを救いたい」と考えて入職するが、子どものケアは仕事のごく一部なのだ。
「自分は何のために働いているのか」と悩んでも、守秘義務や「内情を知らない人にはわかってもらえないだろう」という諦めから、友達や家族に相談もできない。孤立した末に、彼らは心折れ、職場を去るのだという。
一時保護所は定員の「140~150%」
人手不足で管理的に
映画制作に協力した児相職員、川上仁さん(仮名)にも話を聞いた。川上さんは首都圏の児相で管理職をしているが、施設の大半は、高い離職率に加えて虐待相談の急増で慢性的な人手不足に陥り、家庭を継続的にフォローする余力に乏しいという。
「緊急性の高い初動対応が一段落し、人間関係を築いた後は、家庭からの連絡待ちにならざるをえません。どうしても、つぎつぎ出てくる新規案件にエネルギーを注ぐ必要があるからです」
人手不足は一時保護所の運営にも、影響を及ぼしていると指摘する。
「首都圏の保護所は、つねに入所率140~150%と定員オーバー。少数の職員で施設を切り回すため、事故を防ぐための『管理』が重視され、1人ひとりの子どもに向き合う余裕を持てないという構造的問題があります」と、川上さん。
一部施設にはかつて、管理を優先するあまり「入所者は目を合わせてはいけない」「違反者は保護所の庭を数十周罰走」といった理不尽な規則もあったほどだ。さすがに現在は多くが撤廃されているという。
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