東京の「太陽光義務化」がこうも話題になった理由 住宅政策の中では異例となった関心の高さ

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その理由について都は「都内の住宅特性として、住宅建設費が高く、地価も高額であるため狭小な土地利用が多く、斜線制限に伴う屋根形状もあり、太陽光発電などの再エネ設備による環境性能向上への取り組みが進みにくい」からだとしている。

なお、ZEHとは建物の断熱性能の強化とLED照明や高効率給湯器などにより軽減した消費エネルギーと、太陽光発電などによる創エネルギーが、差し引きでおおむねゼロにできる住宅のことをいう。

設置義務化は苦肉の策という側面も

都内では現在、省エネ基準に満たない住宅が依然として供給されており、今後、その基準の適合が義務化されても、東京ゼロエミ住宅の基準を満たさない住宅が供給される可能性が大いにある。

東京都ではさまざまな要因から住宅の省エネ化、中でも太陽光発電設置には困難さが伴う。画像は中野区の街並み(筆者撮影)

国際公約としてゼロエミッション宣言をした以上、住まいの省エネ化を強力に推進しなければならない。太陽光発電の設置義務化は、そのための苦肉の策と言えそうだ。以上が、東京都の省エネ化に関する住宅政策の概要である。

では、話を元に戻す。数ある住宅政策の中で、なぜ東京都の条例案の議論がこれほど白熱化したのだろうか。理由は、太陽光発電が再生可能なエネルギーを創出し、省エネに手っ取り早く貢献する設備であると、高い期待を持って認知されているためだろう。

また、現状で民生用の省エネ設備として広く普及しているものが他にないこと、さらには首都・東京に関するものであること、そして土地代が高くしかも狭小などといった厳しい住宅事情が影響していると筆者には見える。

ただ、太陽光発電はあくまでも設備であり、住まいの中では脇役にすぎない。過度に注目されるのは、住まいの本質からはそれていると言える。というのも、住まいは太陽光発電のためにあるものではないからだ。

もっと言えば、省エネのために住まいがあるわけでもないのだが、より注目するなら建物のほうが重要だ。太陽光発電の耐久性は建物そのものに比べれば短いし、長期的コストを考慮すると建物の断熱・気密性を高めることのほうが有利になるからである。

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