日本縦断1万キロ構想も、ロングトレイルに熱視線 歩いて大自然の素晴らしさを実感できる旅路

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ダケカンバの林の中の小道を進み、分岐から1キロほど歩いたころ、ガスが少しずつ晴れてきた。摩周湖を見下ろせるポイントだが、下はまだ見えない。さらに進むと、天候がどんどん回復し、ついに木立の間から神秘的な湖面が見え始めてきた。思わず布施明の「霧の摩周湖」を口ずさむ。ここでスマホは完全に充電切れ。電池もアウト。慎重に行くしかない。

「霧の摩周湖」がお目見え(写真:筆者撮影)

小鳥のさえずりと花に癒されながら30分ほど歩いてようやく摩周湖第一展望台に到着。売店で冷えたビールを購入。うまい!

第6ステージ:摩周湖第一展望台から釧網本線美留和駅(6.6キロ)

観光客でにぎわう展望台を後にして、釧網本線の美留和駅を目指す。コースの入り口近くに「熊出没注意」の看板。里山を下っていく。途中、きれいな小川が流れていて、蛙が石の上にじっとしている。下りが終わると林道に入る。草地にいたシカが、こちらに気づいて驚いて林の奥に逃げ込む。

林道の先にゲートが見えてきた。ゲートをくぐると、広大な農地が広がり、大型の作業車が羽を広げるようにしてスプリンクラーから何かを噴出している。水だろうか薬剤なのだろうか分からない。とにかく規模が大きすぎる。これが北海道の農業か。

やがて民家があらわれてきた。どこかの家の犬に吠えられながら、先を急ぐ。ついに舗道が出てきた。駅は近い。コンテナタイプの美留和駅に着いたのは17時50分。この日の活動時間はほぼ10時間、歩行距離は20.5キロだった。

以上が筆者のロングトレイル体験記である。かなりの強行軍で、荷物も多かったが、非日常感は表現しきれないものがあった。2泊3日の行程で自分自身と向き合い、体力と気力の限界に挑む貴重な体験となった。紹介した「北根室ランチウェイ」はルート設定を手掛けてきたメンバーの高齢化などで、残念ながら2020年に閉鎖となってしまったが、外国人を含め年間3000人ほどが訪れる人気トレイルだった。

普通にロングトレイルを楽しむのであれば、設定コースの一部を歩くだけで十分である。全国各地に整備されつつある絶景ルートを、好きな時季に気の合う仲間と気ままに楽しむ。それがアフターコロナのアウトドアの新しいスタイルになるかもしれない。もちろん無理は禁物。ただ入念な事前準備と慎重な行動を心がけて一歩を踏み出せば、その先には未知の魅力が待っている。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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