日本縦断1万キロ構想も、ロングトレイルに熱視線 歩いて大自然の素晴らしさを実感できる旅路
危機を脱出し、沼のほとりを巡って最後の長いダート道に入る。「西別林道 延長3413m」という標識があった。この間、誰ともすれ違わない。熊との遭遇を避けるために鈴を鳴らしたり、歌ったりしながら進み、この日のゴール・西別岳山小屋に着いたのは17時半だった。行動時間10時間、歩行距離26.3キロ。
山小屋は2階建てのログハウス。薪ストーブも備えられた充実した施設で、20人以上泊まれそうな広さだ。管理人がいるとのことだったが、平日のためか無人だった。ガスも水道も電気もないから、ランタンの灯と持参したガスバーナー、水、食料で一晩を過ごす。夜になると風が強まり、木々が揺れ、軋んだ音をたてる。周囲10キロ圏内に人家はない。
空は雲に覆われ、月明かりもない。静寂のなかでときおり動物、鳥の鳴声が響く。ウイスキーをあおって寝ようとするが眼が冴えて眠れない。山小屋独り泊の心細さを存分に味わう羽目になった。
第5ステージ:西別岳山小屋から摩周湖第一展望台(13.9㎞)
このトレイルで唯一の登山コースだ。スタートは朝8時。歩き始めは快調に進んだが、途中の急坂で気力が萎えてきた。歩けど歩けど坂が続く。荷物の重さに肩が悲鳴を上げる。天気もイマイチ。ガスが出てきた。気分転換に休憩にする。
コーヒーを沸かし、ゆっくりと一服。そういえば、きのう農場を出てから、養老牛温泉で人を見かけただけで、誰とも話をしていない。コミュニケーションをとったのは牛だけか。しかも、ここへきてスマホの充電器の電池も切れかかっている。いやはや。長い人生、そんなこともあるさ。
苦行のような登りを励ましてくれたのが高山植物の数々。健気に咲く花を見て、パワーをもらう。西別岳山頂(799m)に着いたのは10時半。晴れていれば摩周湖を見下ろせるのだが、あいにくのガスで眺望はゼロ。先に進もう。ここからは快適な道が続く。途中、摩周岳との分岐で休憩。のんびりとくつろいでいると、摩周岳の方から欧米人のカップルがやって来て、「ハロー」と挨拶を交わす。カップルは足早に摩周湖第一展望台方面に去っていった。
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