初孫だったこともあり、私はきょうだいの中でも、とくに祖父にかわいがってもらっていたので、なにもできないことが本当に悔しくて……。そこから、祖父の病気を治したいと思うようになったのですが、私がいたのは工学部。『今から医学部には入れないだろうし、かと言って看護師になるのもどうなんだろう』と思っていたんですよね。
そうしていろいろと模索している間に、『再生医工学』という医療分野があることを知ったんです」
再生医工学は、細胞を使って、重度に損傷した生体組織や臓器を再生あるいは再構築する工学・生物学・医学の学際的な研究分野のこと。ノーベル賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授の山中伸弥氏の「再生医療」に近い分野だが、山田さんがこの分野を知ったのは、まだ山中氏がノーベル賞を受賞する前のことだった。
「そこから、ES細胞や再生医療に可能性を見出したのですが、それでも『現実的に、自分には難しいのではないか』という気持ちがありました。治療が難しいからこその指定難病であり、私のような凡人がいくらがんばっても、祖父の病気は治せないのは明らかだったんです。でも、ほかの人には私のような思いをしてほしくない……。
その結果、『私は教える側になろう。毎年何人か再生医療の研究に携わる学生が増えていけば、私が将来おばあちゃんになる頃にはこの病気の治療法も発展して、私と同じような思いをする人がいなくなるはずだ』と思うようになったんです」
こうして、20歳にして大学院進学を決意した山田さん。当時、通っていた大学の学費は親に出してもらっていたが、父親も当時、病気で働けなくなっており、大学院の学費を出してもらうことはできなかった。
東大の大学院を志望した経緯
そこで、浮かんだのが奨学金という選択肢だ。
「私立大学の大学院は、入学金を含めると修士課程2年間の在籍でも300万円近くになります。大学の教員を目指す私の場合、3年間の博士課程も必須で、5年間で総額750万円近くになる計算でした。
さすがにちょっと無理だなと思ってしまったので、私が進みたい分野を専門としている教授に相談したら『じゃあ、東大受けなよ。俺の母校なら同じ研究続けられるから』と軽く言われてしまって。私がいた大学の工学部は当時、偏差値がかなり低い、いわゆるFランクだったので『そんなの無理ですよ』と言ったのですが、先生は『いや、君なら受かる!』と言ってくれて。そこから、東大の大学院を志望することになりました」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら