「リコーから僧侶へ」彼が驚いたお坊さんの仕事 好きになった女性がお寺の一人娘だったら!?

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そこで「寺院デジタル化エバンジェリスト」と名乗って活動を始めました。

「エバンジェリスト」とは「ITの啓蒙家」の意味で、当時IT業界ではやっていた言葉。もともとはキリスト教の「伝道師」という意味なので、宗教家がやるにはちょうどいいじゃん、と思ったんです(笑)。

エンジニアからお坊さんになったとき、「もうパソコンなんて一生使わなくなるんだろう」と思っていましたが、実際はみんなスマホを持ってるし、パソコンを使っている人も多い。一方で、連絡は電話やFAXしかできない人も少なくありません。

IT化が進む中で、誰も取り残されてほしくない、困っている方がいるなら何かやりたい。そういう思いが強くなっていきました。

「IT僧侶」の活動は、コロナ禍が追い風に

寺院デジタル化エバンジェリストを名乗ったはいいものの、最初のうちは全然反響がなくって。2019年にさくらインターネットさんに協力してもらって、「お寺の公式サイトを作ろう」という趣旨のセミナーを開催したのですが、参加者はわずか5人。めちゃくちゃ広いホールがガラガラで、ド滑りしたんです。

お寺は一般企業と違って人材の循環や昇進もないので、変化に対する抵抗心が強いのだと思います。周囲のお坊さんたちも「変わったことをやっている人がいるもんだ」と遠巻きに見ている感じで、しばらく暖簾(のれん)に腕押し状態でした。

その風向きが一気に変わったのが、コロナ禍です。

Zoom会議をする必要に迫られたお坊さんも増え、取り巻く空気が好意的に変わったのを感じました。まず、セミナーの参加者がコロナ前より格段に増えたんです。

2021年に再びさくらインターネットさんと、ホームページ作成ツールのWixさんに声をかけて、「お寺の公式サイトを作ろう」というウェビナーを開催したのですが、なんと約160人が参加してくれました。

ほかにも会計ソフトのfreeeさんに企画を提案して、「お寺の会計を学ぼう」といった内容のセミナーを開催したこともあります。

(写真:エンジニアtype)

それに、独学でWordPressを学び、サイトの作成支援も請け負うようになりました。

お寺のサイトって企業以上にロングテールで、平気で100年は続いていきますよね。それなら各お寺が管理できた方がランニングコストを減らせて、長期的にはコスパがいいですから、そこのお手伝いができればと考えたんです。

サイトを作って、会報をPDF化して、SNSと連携するなどしたことで、新しいユーザーさまが増えたという声も聞きました。

お寺が伝えたいことは年月を経ても変わりませんが、WebやITを駆使して見せ方を変えることで、業界の新たな光になっているのかなと感じています。

制作例の1つが、浄土宗僧侶が運営する法然上人鑽仰会の公式サイト
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