「受信料だけじゃない」NHKと放送をめぐる議論 「公共放送」の存在意義をあらためて考える

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一方で、懸念も出てくる。そもそも公共性はNHKだけでなく民放にも求められるが、その側面が強まることになる。バラエティーやドラマより、もっと報道に力を入れろとの声が出てきかねない。ただでさえコンプライアンスが番組の縛りになってきた中で、さらに縛りが強まる懸念も出てくる。

娯楽番組が好きで民放を見ている人にとって、いいことなのかどうか。少なくとも民放側は、NHKにこれまでより頼ることになるのをどう受け止めるか、議論する必要があるのではないだろうか。

また全然別の方向で、気になる点もある。NHKは「放送制度の在り方検討会」で「インターネットでの社会実証」の結果を報告した。今回はテレビをあまり見ない、もしくはテレビを持たない人を対象に、NHKのネットでの展開を組み合わせて見てもらうことを評価させる実験だ。発表された結果は概ね良好で、テレビを見ない人にもNHKのコンテンツがネットで評価されることを示した。

個人的には、この結果があまりにも評価が高いので、もっと詳しく見ないと、と感じた。見た人の評価は高いとして、見ようとしなかった人も多いのでは?と突っ込んでみたい。それは置いといても、なぜこの検討会にこの調査結果が出てくるのか。調査の中には「いくらなら妥当か」と金額を聞いた項目もある。うーむ、怪しい。

ネット展開を「本来業務」にしたい?

これは邪推かもしれないが、NHKはネット展開を「本来業務」にしたいのではないか。つまり、共用インフラのためにNHKが多く負担する、その代わりにネットも放送同様NHKの正式な業務なのだと認めさせる魂胆があるのではないだろうか。今はネットについては「補完業務」の位置づけで、だからネットでは料金が取れない。そこを覆してNHKがネットでも受信料を取る駆け引きの材料に「インフラ共用」が使われるのではという、これは実は私に限らずそう懸念する人がいるのだ。

NHKの前田晃伸会長に対して、改革の強引さに不満を持つ局員もいるようだが、経営のプロとしての手腕を評価する声もある。邪推として述べてきた「インフラ共用」と「本来業務」のバーターも、ひょっとしたら前田会長の敏腕ぶりによるものかもしれない。ビジネスの駆け引きとしてはありなのだろう。

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