「受信料だけじゃない」NHKと放送をめぐる議論 「公共放送」の存在意義をあらためて考える
3月までの議論で出たのは、経営が厳しくなるローカル局をキー局が傘下に入れやすくする制度改訂案。これまで、キー局とローカル局の間には資本面などの制限があった。それをなくすのはローカル局が今後も安定して地域情報やニュースを届けるために必要なことだろう。有識者も大枠で賛同し、強い反対意見は出なかった。
そして今議論されているのは、民放とNHKとでインフラを共有する案だ。放送事業は日本中あまねく電波を送り届け、情報格差をできるだけ無くす必要がある。国からの許認可を得ている事業者としての義務だ。そのためには中継局などをつねに管理し、ネットワークインフラを維持する必要がある。そこには並々ならぬコストがかかるが、これまでは別々の会社である各局が個別にメンテナンスしてきた。だが放送事業が厳しくなる中、設備共用を検討すべきとの論が出ている。中継局の末端となるミニサテライト局を共用し、場合によってはブロードバンドつまりネット回線で代替することも検討。その先には送信の大元であるマスター設備をクラウド化し、その共用も視野に入れる。放送局のハードをほとんど共用するような議論が進んでいるのだ。
放送ネットワーク全体の維持のための協力
将来的には民放とNHKの共同出資による、中継局の維持管理を受け持つ事業者の設立も案として出てきた。諸外国ではハードの共用はかなり進んでいることも示され、かなり現実味ある話だ。
放送を維持するためにNHKと民放が協力するのは、放送業界をウォッチしてきた私からすると、コペルニクス的転回だ。民放は何かというとNHKを目の敵にしてきた。先述の「諸課題検討会」が進まなかったのも、NHKの同時配信を許すまじと民放側が再三釘を刺していたことが大きい。もっとNHKをあからさまに敵視する新聞社の団体が何かあると異論を唱えていたことも作用したと思う。私は、日本のメディアの未来のためになぜ協力しないのかと呆れていた。
それが今や、放送ネットワーク全体の維持のための協力が話し合われているのだ。それくらいお互いに厳しくなってきたせいだと思うと、ゲンキンなものだ。民放側には、NHKを頼りたいと考えているフシもある。広告費がもはや縮まるだけだと見えてきたなか、インフラにかけるコストはできるだけ下げたいのが本音だ。NHKに多めに負担してほしいと、誰だって考えるだろう。
そうすると、ここで面白いことに気づく。こうした協力関係を進めると、受信料の一部が民放の放送インフラにも使われることになるのだ。NHKの番組制作などに使うための受信料が、放送全体を支えるために使われるかもしれない。受信料の意味が大きく広がる事になる。視聴者視点では合理的ではないだろうか。NHKに限らずテレビを見るためには受信料が必要、放送があまねく日本中で視聴できるためだと言われると、民放ばかり見る人にも理解しやすい。
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