「受信料だけじゃない」NHKと放送をめぐる議論 「公共放送」の存在意義をあらためて考える

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だが、NHKという「公共放送」のトップがとるべき戦術だろうか。NHKの目標は金儲けではない。駆け引きしたり、損得で動くべき組織ではないはずだ。インフラ共用でNHKのほうが重要な役割を担うのは公共放送としてある意味当然。それだけを動機にすべきであり、その裏にちゃっかり「というわけでネットでも料金取らせてね」という本音が透けて見えたら、それは公共放送の姿ではなくなるだろう。

もう一つ、記事(「NHKはネットで受信料取れない」と断言できる訳)でも書いたが、NHKはネット受信料は絶対に取れない。どんな前振りがあっても、ネットでの受信料は感覚的に成立しないし、逆に猛反発を生む。メガバンクという巨大組織のトップにいた人は、民意など知る気もないだろう。だが公共放送は、日本の8割の世帯が契約し銀行引き落としで払っている。せこい根性が見えたら引き落としを解除する人が続出するだろう。ネット受信料は例えば今回の実証実験のようなことを実際に行なって、多くの人が利用し価値を認めた段階で初めて俎上に乗せることができるものだ。NHKプラスがやっと始まった今の段階では、言い出したら終わりだと思っておいたほうがいい。

NHKは何のために存在するのか

こうしてNHKについて考えていくと、結局NHKとは何なのかに行き着く。これまであって当たり前と思っていたNHKは何のために存在するのか。

自民党の政治家の皆さんは、この議論の機先を制してきた。実は先述の「諸課題検討会」も「放送制度検討会」も、自民党の提言があって始まったものだ。自民党で放送を気にする議員たちが「こういう議論が必要」と言ったのを受けて総務省が有識者会議を始めるわけで、それくらい「つながって」いる。総務省がその指示で動いているようにさえ見える。

自民党の政治家がなぜ放送の今後を気にするかというと、政治家にとって放送が自分たちの支持を支えると捉えているからだろう。悪い言い方をすると、放送システムは自分たちが次の選挙で当選するためのツールなのだ。
こうした自民党議員の動きとは別に、この十数年「安倍・菅政権」がNHKに触手を伸ばしてきたことも今後のNHKを考えるうえで押さえておきたい。

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