――中小企業でのハラスメントにはどのような事案が多いのでしょうか?
今野:大企業と比べると、中小では直接的な暴力が多く見られます。殴る蹴る、机をひっくり返すとか、あからさまな罵倒とか。
――守秘義務の範囲で、具体的な事例をお話しいただけるでしょうか。
今野:とりわけひどい例ですが、元プロボクサーの社長から日々挨拶代わりに殴られるという相談が来たことがありました。それだけでなく、会社の地下にリングがあって、ことあるごとにスパーリングさせられると。出勤直後に失神して、意識が戻ってから仕事が始まるというのが常態化していたそうです。
――ちょっとこれは途方もないですね。
今野:もっと普遍的な話で言えば、そもそも労務管理をしてないところが多いです。労務管理がしっかりしていないのではなく、そもそもしていない。だからありえない長時間労働が可視化されず続いていってしまう。
大企業は「巧妙で周到なやり方」が多い
――その一方で、大企業だとどういった問題が多いのでしょうか。
今野:大企業だと世間から注目されやすいので、今挙げたようなわかりやすい例は少なくなります。その代わり非常に巧妙で周到なやり方が多くなってきます。あとやっぱりもみ消しはありますね。
――いくつか具体的な事例をご教示いただけますか。
今野:たとえば、ある大企業にエンジニアとして勤務する40代の正社員の方のケース。彼は社内で率先してカーボンニュートラルのための提言をしていました。
最先端の技術を扱う会社ということもあり、カーボンニュートラルは事業内容に直接的に関わるもので、正当性のある提案といえるかと思いますし、会社としてもコスト削減になる内容だったそうです。当時、社員の残業時間の長さが深刻化していたのもあっての提案でした。
ところがその提案を受けた上司から「仕事が多いのが嫌なら、降格するかPIP(業務改善プログラム)を受け入れるように」と打診されたのです。
PIPは、暗に退職を促すための手立てとして使われることもあるものです。それを受けて彼は適応障害になり休職。労働組合にも相談したが、「あなたがわがままなのではないか」と一蹴されたといいます。
――労働組合までも真摯に対応してくれなかったんですね。
今野:はい。残念ながら労働組合が味方についてくれないケースも存在します。もっとあからさまなハラスメントとしては、飲み会を盛り上げるために裸で縛り上げられるといったことも、まだまだおこなわれています。
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