――いまだにそんなことがあることに驚きます。
今野:他にも、あるゼネコンの話ですが、新入社員向けの社員寮に毎日上司が来て傍若無人な振る舞いをしていくという相談がありました。中でもひどかったのが、ある日上司が勝手に新入社員たちの部屋にセックスワーカーを手配していて、強制的にサービスを受けさせられたのだとか。
――それはいったいどういう意図で……?
今野:わからないですね。話を聞く限りは”いじり”の延長線上の何かのつもりのようでしたが。
――自分の身の周りでも、男性社員が宴会の余興として女性アイドルの仮装や卑猥な衣装を強制されるといった話がいくつも耳に入ります。
今野:私が関わりを持っている方の中にもそういったケースはあります。男から男への「いじり」というのも本当に悪質ですよね。Me Too運動などの影響で、女性に向けた「これはどう考えてもアウトだろう」という事例は、まだまだ不十分ながらも少しは減ってきていると思います。その反面、男性を標的にしたセクハラについては、先程の事例のような常軌を逸したものが今でものさばっている状況です。
団体交渉は「紙1枚で済む」
――ハラスメントの実態を伺ったところで、現場でどのような支援がなされているのかを伺っていければと思います。例えば、被害者から相談を受けたあと、実際に企業に訴えを起こすとき、その手段にはどのようなバリエーションがあるのか。
今野:被害者からの相談を受けつけているNPOというと、ただ話を傾聴するようなものや、カウンセリングに近いイメージを持たれることもあります。もちろんそのようなことも大事だけれど、「泣き寝入りは嫌だ」「自分は退職するけど、後輩たちのために会社と闘いたい」という方には具体的な訴えの起こし方をお伝えしていきます。なにが被害者の心を軽くするかは人それぞれですが、心を苛んでいる問題自体を取り除くこと以上に根本的な対処はないかと思います。
――訴えの起こし方にはどういったものがあるのでしょうか。
今野:企業を訴える手段として、法律上もっとも筋の通ったやり方は、労働組合に入って団体交渉を申し入れる、というものです。「そんなことをしたら角が立つ」と感じて尻込みしてしまう人は現実問題多いので、必ずしもこういった手段をとれるわけではないんですが、ただ、手続きとしてはいちばん楽です。紙1枚で済むので。
――そうなんですね。
今野:それに、労組による団体交渉は憲法で認められている権利なので、非常に幅広くいろんな要求ができるんですよ。団体交渉といっても必ずしもストライキのような手段だけではなく、基本は「話し合い」ですし、書類でやりとりする場合もあります。
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