企業分析のプロが教える「決算書」読み方のコツ 立教大学ビジネススクール・田中道昭教授に聞く
収益性は売上高や利益率、ROA(総資産利益率)、ROE(自己資本利益率)。安定性は、自己資本比率や流動比率、固定比率、固定長期適合率を中心にチェックする。成長性は、財務、投資、営業の3つのCF項目に、企業の意思が反映されている。
注意すべきは、この3つの視点は互いにトレードオフの関係にあるということだ。
オフィスビル企業を例に取ると、成長性を重視するなら投資して新しいビルを建てようとする。しかしビルの完成には数年を要するので、その間収益性は一時的に下がる。また、投資をすれば安定性は損なわれるが、逆に投資をしなければ将来の成長性は見込まれない。この3つを同時に高めるのは、実は容易なことではない。アップルは極めて特殊なケースだといえる。
――ほかに企業分析において意識すべきポイントはありますか。
もう1つ挙げると、マクロ・ミクロ、長期・短期、定量・定性など、必ず物事の両面から分析する「両利き」思考が不可欠だ。とりわけ、定量分析と定性分析は、セットで行う必要がある。
――定性分析は具体的にどのように行うのでしょうか。
定性分析は企業の戦略分析が中心となる。財務諸表だけで読み取るのは不可能で、その企業が公表しているさまざまなリポートも加味しながら分析する。
定性分析にも三位一体思考が欠かせない
定性分析においても成長性、収益性、安定性の三位一体思考が欠かせない。
成長性は、その企業のビジョンや3年ごとの中期経営計画を見ながら成長戦略を把握する。収益性は、その企業の競合状況、製品・サービスの差別化ポイント、価格競争力などをチェックする。近年ではエコシステムやプラットフォームが形成できているかどうかも重要だ。
安定性は、一義的にはBSの定量分析になるが、どれだけマーケットシェアが獲得できているか、ビジネスがステーブル(安定的)なのかを定性情報からも見ることで分析に深みが増す。
――「決算書の数字を追っても、企業の特徴や課題が見えてこない」と言う人は多いです。
そのとおりで、数字というものは図表やグラフなど「目で見てわかるようにする」ことで、初めて重要なポイントが見えてくる。
私が活用しているものに「ROAマップ」がある。縦軸が売上高営業利益率、横軸が総資産回転率の2軸のマップに数値をプロットしたもので、企業や業界の事業構造と収益構造の両方を一目で見ることができる。ちなみに純利益でなく営業利益を用いているのは、本業による利益のほうが企業の実態を把握しやすいからだ。