ANAとJALの財務が「当面の間」深刻ではない理由 航空大手2社の決算書分析から見えてくる戦略
コロナ危機で急速に手元流動性を高めたANA
まずはANAの2020年4〜9月期決算を見てみましょう。新型コロナウイルスの影響を受け、売上高は前年同期の1兆559億8100万円から72.4%減の2918億3400万円。その結果、営業利益は2809億5000万円の赤字。最終的に、 親会社株主に帰属する四半期純利益は1884億7700万円の損失を計上しました。
大幅な赤字となったため、中長期的な安全性を示す自己資本比率が大きく落ち込みました。2020年3月末時点では41.4%あったのが、2020年9月末には32.3%まで下落しています。今のところ安全性には問題のないものの、業績という観点からは惨憺たる状況と言えるでしょう。
ここで注目したいのは、この状態で資金はいつまで持つのか、ということです。会社の短期的な安全性を見る場合、まず見るのは手元流動性です。自身でコントロールできる資金です。
ANAの2020年9月末の貸借対照表の資産の部を見ると、現金および預金が4329億7000万円、有価証券が192億5000万円ですから、合計で4522億2000万円。この手元流動性を評価するときは、一般的に月商の何カ月分あるかを調べます。ANAの場合、この期の月商を計算すると486億3900万円(=2918億3400万円÷6カ月)になりますから、手元流動性は月商の9.3カ月分あると算出されます。通常、大企業ですと1カ月分もあれば十分安全な水準ですから、同社はかなり高水準の手元流動性を確保していると言えるでしょう。
ここで、コロナの影響がまったく出ていなかった2019年3月期(2018年4月〜2019年3月)の決算を見ていきます。売上高は2兆583億1200万円。手元流動性は、現金および預金が683億100万円、有価証券が2253億6000万円、合計で2936億6100万円ありました。当時は業績が好調でしたから、現預金を短期で運用できる有価証券に回して少しでも運用益を得ようとしていたのでしょう。
手元流動性は月商の1.7カ月分にあたりますから、当時でも多めに確保していたと言えます。ところが、2020年に入ってからコロナの感染拡大によって状況ががらりと変わりました。こういった危機時に陥った場合、手元流動性を高めるのが大原則ですから、売り上げが落ちているということはあるものの、今期は一気に9.3カ月分まで増やしたというわけです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら