ANAとJALの財務が「当面の間」深刻ではない理由 航空大手2社の決算書分析から見えてくる戦略
ANAは引き続き航空機の売却を進めたり、増資をしたりしてキャッシュや自己資本を確保するでしょう。コロナがどこまで続くかはだれにもわかりませんが、厳しいものの、当面は経営に問題はないと言えます。
JALも同じく手元流動性を高めて安全性を確保している
JALもほぼANAと同じ状況です。ただし、JALは2019年4月1日から国際財務報告基準(IFRS)を適用していますので、前期決算と比較する場合は注意が必要です。
大幅な減収減益となったJALは、ANAと同様に手元流動性を高めました。先ほどと同様に計算しますと、コロナの影響をまったく受けていなかった2019年4月1月時点(IFRSへの移行日)では月商の4.2カ月分の手元流動性を保有していました。それが2020年9月末時点では、売上高が落ちていることもありますが、10.7カ月分を確保しています。ANAの9.3カ月分よりも若干多い水準です。
資金の調達方法もANAとほぼ同じです。流動負債のうち有利子負債は、2020年3月末に386億1800万円だったのが、同年9月末には509億円まで増加。固定負債に属する有利子負債は、2020年3月末の2388億1100万円から同年9月末は4502億5000万円まで倍近く増えています。銀行からの借り入れや社債によって手元流動性を確保しているということです。
自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)は、2020年3月末には51.2%だったのが、同年9月末には43.6%まで落ちています。JALも業績は非常に厳しいものの、財務内容としてはまだ余裕があると言えます。
2社ともに当面は心配することはないでしょうが、問題はコロナの影響がどれだけ続くのかという点です。
コロナ禍が長引いた場合、ANAとJALはどのような事態が想定されるでしょうか。
この場合、大きく2つの戦略をとることが考えられます。1つ目は資金調達、とくに増資の実施によって自己資本比率を高めることです。ANAは2020年12月から21年1月にかけて公募増資を実施し、最大3052億円を調達します。さらに昨年10月末には、劣後ローンや劣後社債の発行によって2000億から3000億円規模の資金調達を検討していると報じられました。
同じくJALも11月下旬に公募増資を実施し、最大で1826億円を調達すると発表しました。このうち1000億円を使って、燃費のいいエアバス社の航空機を購入したり、格安航空会社(LCC)事業に投資したりする計画です。残りは社債の償還や借入金の返済に充てられます。
2つ目は、資産の圧縮です。すでにANAは、固定費を削減するために機材の売却や不要になったオフィスの縮小を進めています。資産を圧縮することで、自己資本比率を維持しようと努めているのです。
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