企業分析のプロが教える「決算書」読み方のコツ 立教大学ビジネススクール・田中道昭教授に聞く

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このROAマップは、業界ごとに異なる特徴が表れる。小売業や“口銭商売”がメインだった頃の商社は、利益率が低いぶん高い総資産回転率で稼ぐビジネスなので、マップの右下にプロットされる。

対して、重厚長大型のメーカーは設備投資に多額の資金を要するので総資産回転率は低くなるが、利益率は高くなるので左上にプロットされる。1つのマップ上で同業他社同士を比較してみると、各企業の特徴や課題が視覚的に浮かび上がってくる。

――株式投資ではROEが重視されますが、ROEでなくROAを使う理由は?

ROEは、ROAと自己資本比率に分解できる。つまり、自己資本比率を下げれば上げることができるので、その意味では財務に依存した指標でもある。企業の真の実力を測るには、ROEの一歩手前のROAを見たほうがよい。

営業報告で消費動向観測

――「決算書をじっくり読み込む時間がない」と言う人もいます。

私が実践しているのが、「決算短信」「Yahoo!ファイナンス」など主要なリポートから短時間で情報を把握する「クイックチェック」だ。

決算短信を見るときは、まず、1ページ目の「連結経営成績」の売り上げや利益に関する数字の推移をざっと眺める。それから「連結財政状態」の項目に移り、資産や自己資本比率の推移を見てから、当期の「連結業績予想」を見る。

そこまでを見わたしたうえで、どの指標を深掘りすべきかを決め、2ページ目以降に移る。

田中道昭(たなか・みちあき)/立教大学ビジネススクール教授。テレビ東京「WBS」コメンテーター。米シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、ミッション・マネジメント&リーダーシップ。著書に『GAFA×BATH』など多数 (写真:本人提供)

――多くのビジネスパーソンにとって、決算短信にはとっつきにくいイメージがあります。

確かに、短信を眺めてどこを深掘りすればいいかすぐわかる人は、よほどの財務分析のプロだろう。

ただ、そうでない人でも心がけてほしいのが、定点観測。自社の競合でも興味のある企業でもいいので、特定の企業を決めて定点観測を続けることで、ポイントにいち早く気づけるようになる。

全国展開している大手小売企業の月次営業報告などを定点観測すると、国内消費のトレンドが見えてくる。とくにお勧めしたいのがファーストリテイリング(FR)と三越伊勢丹ホールディングスの売り上げ状況。

FRはかなり早いタイミングで前月の売上高や客数、客単価などの数字を公表している。三越伊勢丹の旗艦3店舗(新宿伊勢丹、日本橋三越、銀座三越)は、百貨店のみならず“小売業界の旗艦店舗”といえるほど、消費動向が鮮明に表れる。月の中旬に確報値が出るので、まず旗艦3店舗のカテゴリー別の前月および累計の売り上げに着目。三越伊勢丹は全国に支店があるので、都市部と地方のギャップ分析にも活用できる。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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堀尾 大悟 ライター

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ほりお だいご / Daigo Horio

慶応大学卒。埼玉県庁、民間企業を経て2020年より会社員兼業ライターとして活動を開始。2023年に独立。「マネー現代」「NewsPicks」「新・公民連携最前線」などで執筆。ブックライターとしても活動。

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