シャルリの描き方の違いに見る差別意識 塩尻宏・元駐リビア大使に聞く(前編)

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繰り返される挑発、抗争が激化

――今回の襲撃事件は、フランスの右翼的なポピュリズムと、イスラーム原理主義と聖戦を唱えるサラフィー・ジハード主義者と、双方の宣伝戦に発展しているようです。

そのように感じます。実は今回に似た事件は何度か繰り返されています。05年にはデンマークで最大の発行部数を誇る新聞が、ムハンマドを風刺する劇画を掲載しました。その一つが、預言者ムハンマドと見られる人物がまとったターバンの中に爆弾らしきものが見えている風刺画で、預言者とテロリストを同一視していると見られるものでした。翌06年には多くのイスラーム諸国で抗議デモが行われ、一部ではデンマーク製品の不買運動も起きました。

また、07年にスウェーデンの地方紙が預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載したことから、サウジアラビアのイスラーム団体などがスウェーデン政府に抗議しました。しかし、スウェーデン政府は謝罪せず、この問題を引きずった結果、10年には首都ストックホルムで、北欧最初の自爆テロ事件が起きました。

このように見てくると、西欧キリスト教社会における預言者ムハンマドについての風刺画は、その描き方が次第にエスカレートし、それに伴って、イスラーム社会の嫌悪感が次第に高まっていたように思われます。このような流れが、今回の「シャルリ・エブド」紙の襲撃事件につながったとも考えられます。

今回の事件により、一時的には双方の過激派の抗争が激化することが懸念されます。しかし、西欧キリスト教世界もイスラーム世界も、その大多数は理性的でまともな判断力を持ち、本来は安寧と平穏を希求する人々です。当面の興奮が収まれば、やがて冷静さを取り戻すものと思います。ただ、一部の人たちによるものとはいえ、風刺画などによるイスラーム教やイスラーム社会に対する挑発的な言動は今後も繰り返されるでしょうから、数年後には同様な軋轢が起きることが懸念されます。

内田 通夫 フリージャーナリスト

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うちだ みちお / Michio Uchida

早稲田大学商学部卒。東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』の記者、編集者を歴任。

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