「資源ナショナリズム」の台頭を牽制
桑島:そうですね。その点についても聞きたいことは山ほどありますが、話を進めると、ワシントンの法律事務所で勤務した後は、経済産業省に勤務したのですね。これはどういう経緯で?
藤井:ちょうど私が米国にいた2010年に尖閣諸島の問題が起きて、中国が日本向けレアアースの輸出を停止したり、大幅に削減したことがありました。
私は米国で天然資源の貿易と競争をテーマに法律の研究もしていたので、この問題は国際機関である世界貿易機関(WTO)を使って、法的な処理を進めるのが適切だと感じていました。日本の経済産業省もそれを見越して、この件を担当する弁護士を探していた。
そのような経緯もあり、私が経産省に出向し、WTOでの中国のレアアース紛争を担当しました。レアアース問題の結果をいうと、一審、上級委員会の両方とも日本の勝訴に終わっています。これは資源ナショナリズムの台頭を牽制する国際的なルールメーキングを一歩進めたという意義も大きい。
桑島:WTOの中に、そういう裁判手続きをするところがあるのですか?
藤井:そうです。スイスのジュネーブに、紛争を解決するパネルと上級委員会があります。私はレアアース紛争のほかにも、アルゼンチンやロシアとの間の通商紛争案件など、新興国をメインに幅広い案件を担当しました。経産省では、日々、国際法の観点から、WTO加盟国の法律や政策が適切に設計、運用されているかについて検証し、必要があればアクションを起こすようにするという仕事をしていました。
桑島:藤井さんのような弁護士が、経産省で働くということは増えているのですか。
藤井:日本政府は昨今、WTOの紛争解決の利用を活発化させ、またFTAやEPAと呼ばれる経済連携協定や投資協定の交渉も多く手掛けるようになっているので、経産省や外務省を中心に通商部門や国際法部門で勤務する弁護士の数は増えてきています。私の所属していた室でも、弁護士3人、裁判官1人、WTOの専門家1人の外部からきた専門家がおりました。
桑島:西村あさひ法律事務所に復帰後は、どんなお仕事をされていますか。
藤井:競争法、独占禁止法に関係する案件、天然資源やエネルギーに関する案件や、経産省で担当していたWTOや経済連携協定に関係するような通商法の分野などを中心に担当しています。
桑島:なるほど。通商や競争法の分野で、自らキャリアを開拓されてきたことがわかりました。その過程で日本、外国政府と折衝することをされてきた。後編では、こうした経験を踏まえて、弁護士がロビイングやルールメイキングにかかわることの意味について、お聞きしたいと思います。
(構成:長山 清子)
※この対談の後編は1月25日(日)に公開します
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