東芝を危機から救った、2万5000通の手紙

3兆円の損害賠償はなぜ回避できたのか?

元東芝 米国上席副社長兼ワシントン事務所長の角家哲雄氏
 1987年、東芝は米国政府から3兆円もの損害賠償を求められる「東芝機械ココム事件」という大事件に巻き込まれていました。その大ピンチを回避させたのは、当時、現地の一支店長だった角家哲雄氏による「草の根」のロビイング活動でした。
 その後、東芝のウエスティングハウス買収時にも対米投資委員会対策に奔走した角家氏のお話は、これから本格的に米国進出を考える多くの企業にとって大きな参考になります。
※前編「東芝を大ピンチから救った、ある社員の物語」はこちら

桑島:前編では東芝機械ココム違反事件が起きて、ダラスの支店にいた角家さんが窮地に陥ったところまで伺いました。それで、その後どうなったのですか?

角家:このままでは東芝が米国から永久追放されるかもしれないのに、私は何もできずにいました。本社から「プロのロビイストにロビー活動を頼んでいるから、素人は何もやるな」と言われていたからです。

そんなとき女房から、「あなた、今、会社が大変だけど、何か対策はとっているの?」と聞かれましてね。「大変だけど、何もできないよ。何かしたらクビになっちゃうよ」「クビになったら実家のお寺を継いで坊さんになればいいでしょう。今、何もしなかったら一生後悔するわよ。後になってグズグズ言うのはやめてね」。

頭に来たけど、それもそうだなと。それで一晩寝ずに考えて、翌朝、会社で従業員を集めて、「オレには何の考えもない。君たちは米国人だから何か考えがあるんじゃないか」とみんなに相談した。それで本社に内緒で、みんなで陳情の手紙を書くことにしたわけです。

ダラス支店がカバーする南部12州には議員が148人いる。彼ら全員、一人ひとりに宛てて、東芝従業員、その親兄弟とその知り合いの約200人で、合計2万5000通あまりの手紙を出しました。もう本社というより、私のところの80人の従業員を守りたいという思いで必死でしたね。あのときのことは、話しているだけでも涙が出てきます。

桑島:計2万5000通あまりの陳情の手紙を書いたところ、最初はひとりの下院議員が動いてくれたんですよね。

次ページ1人の下院議員のもらい泣き
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