東芝を危機から救った、2万5000通の手紙 3兆円の損害賠償はなぜ回避できたのか?

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桑島:まったく角家さんのお話は波瀾万丈で、小説顔負けです。

名誉を挽回するための「地道な活動」

角家:それでまあ、とにかく制裁法案は収まったんだけれど、このままでは東芝の名声は地に落ちたままなので、これをなんとか挽回したいと始めたのが、全米の青少年を対象とした発明コンテストです。科学技術に子供のときから興味を持ってもらうため、ハイテクの東芝らしい社会貢献を考えました。

こういうことは誰に相談したらいいか。ワシントンに行けばそういう団体はたくさんあるので、全米科学教師協会を訪ねました。ちょうど彼らも新しいコンテストを考えていたので、そのスポンサーに立候補したいと言ったら、うまく話がまとまった。

「あの東芝が教育に?」と反感を買わないよう、下院の科学技術委員長に仁義を切ってから慎重にスタートしました。現在、このコンテストでは毎回、大統領からメッセージが来るし、優勝者はホワイトハウスに招待されます。東芝はそういう貢献をしてきたわけです。

それからだいぶ時間が経って、2007年、「NHKスペシャル」という番組の取材班が、なぜ東芝がスムーズに米国企業のウェスティングハウスを買収できたのか、その秘密を知りたいと取材に来られました。

いろいろ話していたら、「角家さん、議員に会っているところを撮らせてください」と言われた。「それは議員が嫌がりますよ」「でもそのシーンがないと絵にならないんです」ということで、上院の軍事委員長、カール・レビン議員に頼んだ。彼は快諾してくれて、NHKのカメラに向かって「東芝はすばらしい会社だ。わが国にこんなに貢献してくれた」としゃべってくれた。放映されたものを見たときは、本当にうれしかったですね。

なにしろ東芝機械事件というのはいまから二十数年前に、米国の軍事委員会から起きたことです。それが今や上院の軍事委員長が、「東芝はすばらしい会社だ」と言ってくれるところまでイメージを回復できた。ついにここまでやってきた、と達成感を抱いて65歳になった今年、米国から帰任しました。

桑島:やはり人と人とのつながりが、2006年のウェスティングハウス買収につながったのでしょうね。

角家:ウェスティングハウスは原子力の会社なので、買収するには対米投資委員会というところを通さないといけないんですよ。原子力というエネルギー安全保障の要に関する会社を外国企業が買収すると国家安全保障に影響が出るので、そういう買収案件は財務省が委員長になって、14の省庁で審議をすることになっている。

その14の省庁さえOKならいいかといえばとんでもなくて、法律には書いていないところで議員がいろいろと介在してくる。

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