西村あさひ法律事務所には、独禁法で有名な川合弘造弁護士がおりまして、私も川合から声をかけられそのプロジェクトに加わりました。
日本や韓国、ヨーロッパやオーストラリアの競争当局に、「この2社の統合は独禁法に違反するから認めるべきではない」と法律論に基づいて主張し、さらに「彼らが統合すると鉄鉱石のマーケットは将来こうなる」というエコノミストによる分析を持ち込んだりした結果、各国の当局をして2社の統合について厳しく審査してもらい、統合を防ぐことに成功しました。
桑島:すごいですね。

藤井:やっぱり日本には資源がないし、国益にもかなう案件だったと思います。また、各国の弁護士やエコノミストと連携しながら、いろいろな国の当局と折衝するのも非常に面白かった。
桑島:それでその後、ニューヨーク大学のロースクールに留学したんですね。
藤井:はい。「Hauser Global Scholars Program」というものに応募して留学しました。これは米国法を教えるというよりも、「グローバルなルール形成に貢献できる人材を育てる」ことを目的とする奨学金のプログラムで、25年の歴史があるものです。発足時は米国で初めてグローバルなルール形成に着目したプログラムとして画期的なものでした。このプログラムでの研究テーマにしたのが、天然資源分野における貿易と競争の促進についてでした。
天然資源の分野は、どちらかというとパワーポリティクスが牛耳っている世界なのですが、日本のような資源の乏しい国の観点からは、天然資源の貿易と競争を促進するためにもルールの視点を導入するとよい、という問題意識から研究をし、論文を書きました。先ほど述べた「BHPビリトン」と「リオ・ティント」の件がすごく印象に残っていましたので。
桑島:そしてそこを卒業してワシントンの法律事務所に勤務したのですね。
藤井:ええ、ちょうどその頃は米国の司法当局による、日本企業を含むアジア企業が関係する国際カルテルの摘発が急増していました。液晶パネルや自動車部品のメーカーの役員が米国で禁固刑を言い渡され実際に服役したり、巨額の罰金をかけられたりしていた。
桑島:それは政治的な意図があったのでしょうか。トヨタのリコール問題などは、米国が民主党政権に代わってから出てきていますよね。
藤井:それについてはワシントンの弁護士や司法当局の人とも話したことがあるのですが、もちろん彼らはそれを否定しています。実際に起きたことは、日本にリニエンシーの制度が導入されたのが2006年ですから、それ以降、日本企業も自分たちがカルテルに関係していないかどうか、積極的に調査をし、疑わしいものを当局に自主的に申告した。それが徐々に連鎖・波及していって、広範な自動車部品にまで火がついてしまったのではないかと思っています。
政治的な意図の問題はさておくとして、私は自動車メーカーと自動車部品メーカーの仕事の仕方は、カルテルとは言い切れない部分もあるのではないかと思っています。自動車メーカーは部品メーカーに真剣に競争させることもあれば、製品の開発段階から役割分担をして、特定の部品メーカーとのすり合わせがスムーズにいくように製品設計していることもある。
日本の自動車会社にはいわゆる系列があったので、そういうことは昔はよくあったと思うし、今でもその名残はある。でもそれが米国から見ると、カルテルと映るのは否めない。暗黙の役割分担なども、カルテルに該当すると判断されかねない。
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