藤井:あとは企業のM&Aなどにも独禁法が関係してきます。たとえば業界最大手の2社が合併を考えているとする。しかし市場におけるシェアが大きくなりすぎると、独占とか寡占という望ましくない状態になるおそれが出てくる。こんなときは公正取引委員会との折衝が必要になります。
たとえばガラス製品を作っている会社同士が合併したいとする。そのままでは公取に認めてもらえそうにない。そこで「お客さんはプラスチック製品を選ぶこともできるので、合併してもガラス製品の値段を吊り上げて、独占的な利潤追及をすることは不可能です」というようなロジックをつくって主張する。
桑島:それが認められると、合併審査に通過して、M&Aができるわけですね。
日本政府との折衝だけでは足りない
藤井:競争法にしても企業危機管理にしても、折衝するのは日本の当局だけでなく、各国の政府に対しても行います。
たとえば米国の金融規制に違反してしまった日本企業を守るような場合は、外国の弁護士とチームを組んで、米国の当局と折衝することになります。社内で事実解明を進めて、法律論で理論武装をしたうえで、当局と折衝していきます。
桑島:タカタのエアバッグ問題などは、まさにそれですね。
藤井:そうですね。同じ自動車部品でいえば、ここ数年間、米国では日本の自動車部品メーカーのカルテルが、盛んに摘発されていますからね。
あれは日本の独禁法だけではなく、自動車部品が世界各地で製造され、輸出されていることから、米国やEUの競争法も関係してきます。したがって、日本の当局だけでなく、米国や、さらにはEUの当局とも折衝しなければならない。
ほかにも、最近は、ボーイング787の不具合とバッテリーを供給していたGSユアサの問題がありました。この件では担当していた弁護士の対応も適切で、事態をうまく収拾することができたとも聞いています。
オーストラリア企業のM&A阻止に成功
桑島:「これは自分にとって転機になったな」というような、思い出に残る案件はありますか?
藤井:オーストラリアに「BHPビリトン」と「リオ・ティント」という企業があります。この2社はどちらも鉱物資源の世界的な最大手で、日本や中国や韓国の鉄鋼メーカーは、この2社から鉄鉱石や原料炭を輸入することで、さまざまな鉄鋼製品の製造が可能となっています。それで、あるときBHPビリトンがリオ・ティントに敵対的買収をしかけるという事件がありました。
これに対して危機感を覚えた日本の鉄鋼メーカーが、うちの事務所に相談に来られたのです。いわゆる高炉を持つ鉄鋼メーカーが、当時、日本には5社ありました。それが共同で「資源最大手の2社が合併したら、鉄鉱石や原料炭の供給を牛耳られてしまう。独禁法を使ってなんとかならないか」という相談に来られた。
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