ルールを変えるために必要な「戦略性」
桑島:藤井さんは、弁護士がロビイングにかかわることの意味について、どうお考えですか。
藤井:まず、ロビイングにおける法の役割とは何かを考える必要がありますね。企業が既存の法律や政策を改正してほしいとか、新しく作ってほしいと主張するとき、法律家の大事な役割は、「法の支配」というコンセプトに基づいて仕事をすることなんですよ。
桑島:「法の支配」というのは、「いいからみんな黙って法律に支配されなさい、法律に従いなさい」ということではないですよね。
藤井:そのとおりです。抽象的な意味での「法」には、実現しようとしている価値観があるんですよ。
たとえば正義、平等、効率性、予測可能性、適正手続き、機会の保障など。これらの要素から実際の法律や政策を評価し、問題があればこれらを改善していくという考え方です。
われわれのような渉外弁護士は、似たような先例が過去にない場合がほとんどです。そういった中で、正義とか平等、効率性とか予測可能性とか適正手続きなど、「法」の目指すそれぞれの価値観から議論を重ねて、妥当な解決を導けるかどうか。それができるのが、「法の支配」に忠実な弁護士です。これを僕は個人的に「戦略的法務感覚」と言っています。
桑島:その「戦略的法務感覚」がロビイングには必要だと。
藤井:そうですね。たとえばある会社が、「今のままでは市場に参入できないから、ルールを変えてほしい」という場合。法が実現しようとしているいろんな価値観を踏まえて議論を作る、理論武装するということが、非常に重要な土台になると私は考えています。これは、競争法や企業危機管理、通商法の実務経験を積む中で、法的な理論武装をして日本の当局やほかの国の当局と折衝し、時には裁判のような手続きに踏み切ってきた中で培った見方です。
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