藤井:そうですね。グーグルなど米国を代表する企業のロビイングの発想は、政治や政府の時々の行動に左右されることなく、経営の姿勢としても自らの価値観を実現していくために「法の支配」を重視すると聞いています。実際にも米国で法律の勉強をしたり法律業務をすると、これらのIT企業が画期的な法律や政策の提案をしたり、判例を形成しているのを目の当たりにします。
また、会社としては、各国の法律や制度が不合理でもこれに順応するか、それとも法の支配に照らして内容の是正を折衝するのかについては、地域部門と本社の渉外部門とで意見が異なるような場合もあるかもしれません。
そのような場合には、経営陣による裁定が必要となるものと思います。日本企業の取り組みを進めていくためには、やはり経営陣の方々にルール形成やロビイングの重要性を認識していただけるとよいのではないかと思います。
日本の官僚の交渉力には学ぶべき点が多い
それと経産省で働いた経験からもうひとつ言うと、弁護士にも行政官的な感覚が必要だと思うようになりました。たとえば官僚は政策を立案するとき、それを実現するためには誰にどのタイミングで、いかなる形で働きかけるかという知見をものすごく多く有している。
相手国と紛争になった場合にも、友好的解決を図るのであれば、相手国の政策ニーズや解決しようとしている課題は何か、政策や法律の形成手続きや関係する役所や部署はどこか、これらを踏まえて代替案を提案していく力も重要です。官僚はこうしたスキルに長けている方も多いと思います。これは単に人脈があるということではありません。これは個々人の知識を超えて、組織としての経験と知見があるというか、DNAでわかっているようなところがあります。
ひとりの人間が戦略的法務感覚も行政官的な感覚もバランスよく持ち合わせるのが理想ですけれど、バックグラウンドの異なる人間が、それぞれのすぐれたところを生かして案件を進めるのが、いちばん早いやり方じゃないかと思っています。
桑島:その点、米国では政府と民間会社を人材が行ったり来たりする、いわゆるリボルビングドア(回転ドア)という仕組みがありますからね。米国に比べると日本はそういうチーム形成がしにくい環境にあります。
ところで今、TPPなどが話題になっていますが、こういう経済連携協定を結ぶことで、海外のルールメーキングにおいても変化が起きてくるのですか?
藤井:おそらく国際法務のあり方が変わってくるでしょうね。今までの国際法務は、日本企業の輸出先や投資先の国の法律がどうなっているかを明らかにして、「現地法はこうなっていますから、これに従ってください」とアドバイスをするということが中心でした。
でもこれから経済連携協定や投資協定のネットワークが充実してくると、WTO協定に加えてこれらの条約の内容を加味して、それに照らして問題があれば、相手国の政府にその是正を求めていくということも可能になります。
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