高島:仲間を集めて、ネットにかかわることをしたいと思って始めた会社で、事業はある程度、軌道に乗っていました。それで、自分は起業とか、経営者に向いているかもしれないと思いました。でも、それと同時に、このままいくと「小成功」しちゃいそうな感じがあって、それには違和感があったのです。このまま本気でこの会社を続ければ、小遣いには困らない程度の生活はできそうでした。
しかし、次第に、今やっている事業は、自分が人生を懸けるほどのチャレンジにはなっていない、力を出し切れる事業じゃないと感じるようになったのです。きちんとした事業計画もありませんでしたし。それなら、もっと仕事の実力をつけて、明確な事業のイメージを持ってから、再びみんなで集まって会社を作ったほうがいいのでは、と考えたのです。
楠木:若いのにずいぶん大人っぽい思考と行動ですね。それがマッキンゼー入社の動機だったわけですね。
高島:僕にとって、仲間との約束というのは、何をおいても守られるべきものなのです。あれこれ余計なことを考えずに、無条件に実行しなければならない。その約束のモデルが、『サンクチュアリ』にあったと言えます。それから自分には、人生のレールから外れたことがないというコンプレックスもありました。そのコンプレックスを乗り越えないと、きっと新しいことはできないとも考えていました。こうしたわけで、マッキンゼーを辞めることに躊躇はありませんでしたね。
世の中の役に立っている自分が好き
楠木:高島さん自身、東大、マッキンゼーときて、仲間もIBMに入ったりして、そうした仲間が集まったとき、当時の「ネットネットした状況」を考慮すると、アイデア一発勝負のネットビジネスで、一丁うまいことやったろう……、という方向に行くのがありがちなパターンですね。でも、高島さんたちは、生鮮野菜のネット販売という、ちょっと聞いただけでも手数がやたらにかかって大変そうなビジネスを選択している。僕はこの事業の選択に、高島さんの好き嫌いが色濃く反映していると思います。好き嫌いで語ると、食の分野に事業立地を定めた背景には、どんな理由があったのでしょうか。
高島:サラリーマンをやっていた2年間、大学時代の仲間とは毎週末集まっていました。ずっと話し合いをしていて。「僕らは何をやりたいのだろう」「自分たちのやりがいは何か」と、突き詰めていきました。そうすると、人の役に立つことにはやりがいを感じる、ということがわかってきました。こう言うと、なんだか非常にイイ人に聞こえますが、正確に言うと、「人の役に立っている自分が好き」ということに気がついたわけです。
楠木:ああ、それは真実ですね。人間はわりと単純にできている。あくまでも自分が大切なのですが、結局のところ、自分以外の誰かのためになったときにいちばん気分よくなるようにできていますね。この辺、神様もイイ仕事をしたな、と僕が思うところです。
高島:自分たちが生み出したサービスによって、そのサービスが存在しなかったときよりも、確実に社会がよくなっていたら、そうとう気持ちいいんじゃないか――そういう考えが、事業を決めるうえでの根っこにあったのです。そのうえで、人の役に立つことって何だろうと考え始めました。
楠木:そこはまさに、好き嫌いの最たるものですね。だから、自分の好きなことを突き詰めていくと、世の中的にいいとされていることにつながる。ここに人間と仕事の善性が強く出ている。そうとうひねくれた人であっても、人に喜ばれることをしたいという欲望がある(笑)。これは人間の本性ですね。ただ、一方で、高島さんのおっしゃる小成功的な、事業を成功させて高級外車を乗り回したい、というのもまた人間の本性だと思うのです。特に、高島さんが起業する時期は、ドットコム・バブルの全盛期で、見渡せば小成功モデルが林立していた。そっちに向かわなかったということは、金銭欲とか物欲は強くなかったわけですか。
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