これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
今回、取材に応じてくれたのは野元勇真さん(35歳・仮名)。本連載では初となる医師で、奨学金の総額は、約2160万円だ。
今まででも一番大きな金額だが、「4年制私大(文系学部)を卒業→医学部再受験→国公立大学の医学部に合格」とその人生も紆余曲折を経ている。
中堅高校から難関私大へ
東海地方に位置する某県出身の野元さんは、4人きょうだいの2番目だ。
「地元は田んぼばかりの田舎だったのですが、そこでうちは祖父の代から文房具店を営んでいました。
祖父の代は儲かっていたようですが、少子化がすでに進み、学校が統廃合されていた私が中高生の頃は、世帯年収で400万円ぐらいだったと思います」
時代の影響もあり、金銭的に裕福とはいえず、家庭内ではお金で揉めることもあった野元さんの実家。そんななかで、彼が進学したのは地元の中堅レベルの高校だった。
トピックボードAD
有料会員限定記事
ライフの人気記事
無料会員登録はこちら
ログインはこちら