「医学部奨学金は、指定された病院に就職するか、一括返済するかの二択しかありません。だから、私は今は支払いを猶予してもらって、6年経ってから指定された病院で勤務しようと考えているのですが、婚約している彼女は今の場所でずっと暮らしたいと言っているんですよね。ですので、彼女の意見を尊重して、1400万円以上を一括返済することになるかもしれません」
「しっかり考えて」とは言うものの…
取材の最後、「奨学金を借りようとしている高校生に伝えたいことは?」と尋ねると、野元さんは以下のように話してくれた。
「やっぱり『奨学金を借りる』という意思確認は、もっとしっかりとしたほうがいいと思います。必要な支援を適切に使い、正しいやり方で十分な努力をすることで、人生を挽回できる可能性もあるけど、なんとなく大学に行って、なんとなく卒業して、借金を負うというのは、デメリットのほうが大きいでしょう。
私自身、今でも奨学金の制度には、ありがたいものだと思うと同時に、怖いものだとも感じています。だからこそ、奨学金を借りる当事者はしっかりと調べたり、考えたりしてほしいですね」
至極まっとうで、反論しようのない意見だ。
だが、筆者としてはどうしても「そうは言っても、高校生のうちに、そこまで深く将来のことを考えられるんだろうか?」という疑問が浮かんだのも事実だった。
そういうのは大人になった今だからこそ言えることで、いくら想像力を働かせても、人生経験や社会経験に乏しい子どもには難しい気もする。だいたい、そう語る野元さん自身が、紆余曲折ある人生を歩んできた人物ではないか……やや意地悪だと思いつつ指摘してみると、こんな言葉が返ってきた。
「おっしゃる通り、高校生のうちに将来を決めるというのが、現実的に難しいのも事実だと思います。少なくとも私自身は、20歳を過ぎて、ようやくいろんな現実が見えてきて、将来のことを考えられるようになりました。
大学に入学した当初は心理学の研究者になりたいと思っていましたが、いざポスドク事情を知り、仕事につけないかもしれないことを理解したときは怖かったです。だからといって、就活をして大手企業で働くことも、自分には想像できなくて」
では、私大の文系学部に進んだことは無駄だったか……というと、それもまた違う感覚のようだ。
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